白内障

[No.4251] 白内障手術後の「なんとなく見えにくい」──5つの原因をわかりやすく整理

日本の眼科11月号特集

白内障手術後の「なんとなく見えにくい」──5つの原因をわかりやすく整理してみました

白内障手術の成功率は近年目覚ましく向上し、多くの患者さんが「手術翌日からよく見える」時代になりました。しかし実際の外来では、視力検査は良好でも「なんとなく見えにくい」「すっきりしない」といった訴えが残ることがあります。

今月号(日本の眼科11月号)は、この“説明しづらい見えにくさ”を正面から扱った臨床講座が5本まとめられており、どれも日常診療に直結する内容でした。以下に、各稿の要点とともに、私(清澤)のコメントも加えてまとめます。


① 眼表面のわずかな異常が「すっきり見えない」原因に

(高 静花 先生:大阪大学)

最も強調されているのは、視力数値が良くても視覚の質は低下しうるという事実です。

涙の質の低下、角膜の小さな傷、不正乱視、高次収差など、ほんのわずかな乱れが像のにじみを生みます。

術前に重要な4ステップ

①問診とスリットランプ:まばたきが少ない、まぶたのたるみ、眼瞼炎は見え方に直結。

②フルオレセイン染色:軽度ドライアイや結膜弛緩、EBMDの発見に必須。

③角膜形状解析(トポグラフィー):軽い円錐角膜や涙の乱れによる一過性のゆがみも検出。

④動的視機能評価:瞬き後の像の変化(にじむまでの秒数)で涙の安定性を把握。

特に膜型ムチン不足のドライアイでは、「瞬き直後だけよく見える」という特徴があり、これが高次収差の変動として現れます。

●清澤のコメント

実際の外来でも、視力は1.0でも“見え方が悪い”と訴える患者さんの多くは、涙液や角膜上皮のわずかな異常が背景にあることは多いです。白内障手術の前に“眼表面を整える”ことが、術後満足度を大きく左右するという点は私も同感です。


② 眼内レンズ(IOL)偏位に伴う見えづらさ

(二宮 欣彦 先生)

IOLの中心ずれ・傾斜・回旋は、視力では評価されにくいのに、コントラスト感度低下や光のにじみの原因になります。

特にトーリックIOLの回旋は、乱視矯正が大きく狂うため問題です。

診断には

  • 前眼部OCT

  • 波面収差解析

    が有用で、軽度なら眼鏡矯正、重度なら再固定術・交換術を検討します。

●清澤のコメント

IOL偏位は確かに頻度は高くありませんが、実際に起きると患者さんは“像が傾く”“妙なゆがみを感じる”など違和感で来院されます。

プリズム様の見え方になるため、自覚もしやすい印象があります。


③ 液状後発白内障(Liquefied After Cataract:LAC)

(佐々木 優 先生)

白内障手術後数年して、IOL後面と後嚢の間に乳白色の液体がたまる病態がLACです。

細隙灯では乳白色の貯留を認め、AS-OCTでは後嚢が弓状に押し出されて見えます。

症状:視力低下・屈折変化

治療:Nd:YAGレーザー後嚢切開が有効

ただし、Low-power IOLの症例は 1.0D以上の遠視化を生じることがあり注意が必要です。

●清澤のコメント

LACは私の外来でも数例経験がありますが、“白濁した袋状の貯留”がきれいに見えます。

YAG治療で軽快しますが、術後に遠視化する可能性があるという新しい情報は、臨床上覚えておく価値があります。


④ 後部硝子体剥離(Posterior Vitreous Detachment:PVD)とコントラスト低下

(水戸 毅 先生)

PVD(後部硝子体剥離)は、高齢者で自然に起こる現象で、主症状は飛蚊症です。

しかし最近の研究で、PVDがコントラスト感度低下を引き起こすことがわかってきました。

特に相性が悪いのが

回折型多焦点IOL(MF-IOL)

で、PVDが“waxy vision(くすんだ見え方)”を助長することがあります。

●清澤のコメント

飛蚊症が強い場合、近年は硝子体切除術を検討するケースも増えています。私も最近、飛蚊症の重症度を評価するVFFQ-23を紹介しました。

PVDが“見えにくさ”に関与するという点は、今後さらに注目されると思います。


⑤ Dysphotopsia(異常光視症)

(川守田 拓志 先生)

白内障手術後の“なんとなく見えづらい”訴えの代表が dysphotopsia です。

2種類の症状

  • positive dysphotopsia:光の輪・ギラつき・まぶしさ

  • negative dysphotopsia:耳側の黒い帯状の影

原因は

  • IOLエッジ形状

  • 屈折率

  • 虹彩とIOLの位置関係

    などが影響し、光学シミュレーションでも再現されています。

    対策としては、IOLデザイン改良、レンズ交換、時間による順応などが検討されています。

●清澤のコメント

異常光視症は近年よく耳にするようになりました。特にnegative dysphotopsiaの耳側暗影は“何かが横に貼りつく感じ”と訴える患者が多く、理解しておくべき概念です。


●まとめ

今回の特集を読み通すと、白内障術後の“なんとなく見えづらい”の裏には

  • 眼表面のわずかな乱れ

  • IOL偏位

  • 液状後発白内障(LAC)

  • 後部硝子体剥離(PVD)

  • Dysphotopsia(異常光視症)

    といった、多様で精密な光学的要因が潜んでいることがわかります。

視力検査では正常でも、見え方には違和感が残る場合があります。

もしこの記事を読んで「自分も当てはまるかも?」と思われた方は、ぜひ専門の眼科に相談なさってください。

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