コロナ感染症後の眼症状と、近視進行との関連について
(成人で“感染後に急に近視が進んだ”と訴える症例を受けた場合)
1年前にやや重い COVID-19 に罹患した後、「自覚的に近視が進行した」と訴えて来院される成人患者さんが紹介されることがあります。コロナ後には全身症状の長期化が広く報告されていますが、眼科領域においても、以下のようなさまざまな後遺症が報告されています。
① コロナ感染後に報告されている眼科的後遺症
文献的には、COVID-19 感染後には 結膜・角膜・涙腺・網膜・視神経など多様な部位に影響しうることが示されています。代表的な所見には次のようなものがあります。
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結膜炎(充血、浮腫、涙目など)
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ドライアイ(涙液の量・質の低下)
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霧視・かすみ目、視力低下
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羞明(まぶしさ)
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眼痛・眼精疲労
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網膜血管障害(網膜静脈・動脈閉塞、出血など)
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視神経炎・虚血性視神経症
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ぶどう膜炎
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角膜上皮障害
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涙腺炎・涙道の炎症
これらは感染直後に限らず、数か月〜数年後に発症する例があることも報告されています。
病態の背景としては、
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ウイルスが結膜・角膜や涙腺の細胞に侵入すること
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感染後の免疫反応や微小血栓形成
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自律神経の乱れ
などが挙げられており、眼科受診による定期的なチェックの重要性が指摘されています。
② 清澤眼科医院が眼科医院通信で扱ってきた内容
当院でも「新型コロナ後遺症と眼の症状」について、会員通信で繰り返し解説してきました。
その中では、特に次の症状を中心に説明しています。
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ドライアイ
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霧視・視力低下
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羞明(光過敏)
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眼痛・眼精疲労
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視神経炎や網膜血管炎などの“まれな重症例”
総じて、コロナ後の眼症状の多くは軽度〜中等度で、角膜表面の異常や涙液のトラブル、自律神経の乱れによるまぶしさなどが主であると考えられます。
③ では、コロナ感染後に“近視が進む”ことはあるのか?
ここが今回のご相談の核心です。
● 結論から言うと
COVID-19 に罹患したことが直接原因で近視が進む、という確立した医学的報告は現在のところありません。
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コロナ感染 → 眼球構造変化 → 近視進行
という因果関係を示した論文・症例報告は 見つかっていません。
● しかし“小児では近視進行が加速した”という報告が多数ある
ただし、小児・学童を対象とした複数の研究では、
パンデミック中に近視の進行が速くなった
という観察結果が一貫して示されています。
背景としては、
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外遊び時間の減少(屋外光の欠乏)
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オンライン授業や家庭内生活による近見作業の増加
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スマホ・PC の使用時間激増
など、生活習慣の変化が近視進行の主要因とされています。
この点で言えば、近視進行が「コロナ“感染”」そのものによるのではなく、
コロナ禍による生活行動の劇的な変化によるものと理解されています。
④ 成人が「感染後、近視が進んだ」と感じる理由(推定)
成人の場合は、眼軸長の伸長による真の近視進行は起こりにくく、
自覚的に「近視が強くなった」「見えにくい」と感じる背景には以下の要因が考えられます。
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涙液不安定・ドライアイ → 視力の“ゆらぎ”
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角膜表面の微細障害 → 一時的な視力低下
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自律神経の乱れ → ピント調節力の低下
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長時間のスマホ・パソコン使用 → 調節緊張(仮性近視)
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眼精疲労の増悪
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コロナ後の全身倦怠感・集中力低下
調節緊張(仮性近視)や涙液不安定による視機能低下が、「近視が進んだ」と解釈されることが多いと推察されます。
【最終結論】
● 現時点で、COVID-19感染“そのもの”が原因で近視が進行したという医学的報告はありません。
● しかし、コロナ禍の生活習慣(屋外活動減・近業増)により、特に小児で近視進行が加速したという集団データは多数あります。
● 成人の「感染後に近視が進んだ」という訴えは、多くの場合、
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ドライアイ
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調節緊張
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視機能のゆらぎ
といった 機能的変化が背景であると考えられます。
したがって今回の患者さんに対しては、
感染後の生物学的後遺症としての近視進行は考えにくいこと、
視機能・涙液・調節の異常などの“評価すべき別原因”が多いことを説明し、
適切な検査(屈折・調節・角膜/涙液・眼底のチェック)を行うのが妥当と考えました。



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