白内障

[No.4262]

■市販薬乱用・依存が若年層に急増──開業医が知っておくべき最新動向

(精神保健研究所の松本俊彦氏の「市販薬乱用・依存の現在」(東京保険医新聞1956号2025年11月25日)を読み、その内容に沿ってまとめ、清澤が眼科医の視点からコメントを付しました)

近年、医療界で静かに、しかし確実に深刻化しているのが 市販薬(OTC薬)の乱用・依存 です。精神科医・松本俊彦氏が東京保険医新聞(11月25日号)で報告した内容は、眼科を含むすべての開業医が知っておくべき重要な現状を示しています。本稿では同氏の記事のポイントを整理し、最後に眼科診療の現場から見た私(清澤)のコメントを加えました。


1.10代の市販薬使用患者が激増している

以前は中高年女性に目立つとされてきた市販薬乱用ですが、現在最も増えているのは 10代 です。

咳止め薬や総合感冒薬、睡眠改善薬などを大量に摂取する若者が急増し、SNSでは“OD(オーバードーズ)”が一つの文化のように取り扱われ、自傷や希死念慮と結びつく例も少なくありません。


2.乱用される市販薬とはどのような薬か

松本氏が指摘する主な薬剤は以下の通りです。

  • 咳止め薬(デキストロメトルファン):多量摂取で陶酔・幻覚作用。

  • 総合感冒薬:抗ヒスタミン薬による鎮静・解離感を目的とする乱用。

  • 鎮痛解熱剤:身体症状改善目的の連用から依存へつながるケース。

  • 睡眠改善薬:抗ヒスタミン成分が中心で、耐性と依存が問題化。

これらは 入手が容易・値段が安い・購入時に身元確認がない という特徴があり、心理的ハードルの低さが乱用拡大の背景となっています。


3.乱用者の特徴:薬を求めているのではなく「苦しさから逃れたい」

松本氏は、乱用の中心に 生きづらさ・孤立・精神的苦痛 があると述べています。「気分を上げたい」というより、「つらさを鈍らせたい」「眠りたい」などの消極的な動機が多く、家庭や学校での困難、孤立感、相談相手の不在が背景にあります。

典型的には:

  • 不安・抑うつ・希死念慮

  • SNS で同じ境遇の仲間とつながる

  • 受診を繰り返すが本当の問題を語らない

  • 複数医療機関を受診し薬歴が複雑になる

これは「依存症」というよりも、若者の置かれている 心理社会的な危機 を反映していると言えます。


4.臨床現場で何が起きているか

医療機関には、これらの若者が 身体症状を主訴 に受診してきます。松本氏が指摘するように、乱用者は本当の目的を語らないため、医療者は気づきにくいのが現状です。

  • 大量摂取による急性中毒(肝障害・意識障害)

  • 精神的背景を語らず、身体症状の訴えに終始する

  • 薬歴把握が困難

  • 適切な依存症医療・精神科へつながらないまま反復受診

特に開業医では、短い診療時間の中で背景に潜む心理的危機を見抜くことが難しく、結果として必要な支援につながらないケースが増えています。


5.社会に責任はないのか──眼科医清澤の一般的なコメント

松本氏は、乱用を若者本人の問題として片づけてはならないと述べています。

市販薬が容易に買える社会構造、SNSでの乱用の“美化”、若者の孤立、精神医療につながりにくい状況…。これらはすべて、社会全体の問題です。

眼科外来にも10代の患者は多く、頭痛・視覚不快感・疲れ目などを繰り返す若者の中には背景に市販薬の過量摂取が潜む可能性もあります。私の診療所では神経眼科疾患特に眼瞼痙攣患者を多数受け入れているのでこの問題を避けて通ることは出来ず、また精神科に紹介することで一件落着という対応をすることは出来ません。ボトックス投与などと合わせて種々の取り組みを試みることになります。

医療者としてできることは、

  • 症状だけを診るのではなく「最近よく薬を飲んでいる?」と自然に訊く

  • 責めずに話を受け止める姿勢を示す

  • 必要に応じて精神科・依存症専門医につなぐ

という「気づき」と「橋渡し」です。

若者の孤立を減らし、相談できる窓口を作ることが、乱用防止の第一歩になるでしょう。

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