眼瞼痙攣

[No.4259] 眼瞼痙攣における羞明とは何か

◎ 眼瞼痙攣における羞明とは何か

東神奈川駅前で行われた友の会での私の講演内容です。 自由が丘清澤眼科 清澤源弘

眼瞼痙攣患者友の会の総会で「眼瞼痙攣における羞明(しゅうめい:光が不快で耐えられない症状)」について講演する機会をいただきました。私は日々、眼瞼痙攣やドライアイなど光に敏感な患者さんを診療していますが、この「羞明」を一言で説明するのは簡単ではありません。

光過敏は単なる“眩しさ”ではなく、網膜から脳の深部、そして大脳皮質にまで関わる広い神経ネットワークの異常な反応として理解されつつあります。今回の講演に合わせて、最近の重要な研究を整理し、患者さんにもわかる形でまとめ直しました。ここではその内容をブログ用にご紹介します。


① 光過敏は「目だけの問題」ではない

Noseda ら(2010) Current understanding of photophobia

青色光に反応する網膜神経節細胞(ipRGC)が、痛みや不快感を司る視床へ強い信号を送る仕組みが明らかになっています。

つまり羞明は、網膜→視床→大脳皮質へと続く神経回路全体の“過剰反応”で生じる現象です。


② 片頭痛の光過敏と同じ仕組み

McAdams ら(2018) Melanopsin-driven ipRGC signaling in migraine

片頭痛の光過敏では、青色光に対してipRGCが特に敏感であることが示されました。このため、青色域を抑える遮光眼鏡が有効である理由が科学的に裏付けられています。


③ 視床プルビナールが「結節点」

Chen ら(2021)Blue light activates pulvinar

慢性的な光過敏患者の脳画像研究で、青色光が視床の“プルビナール”を強く賦活することが判明しました。羞明の中枢として、近年最も注目されています。


④ 片頭痛研究が示す視覚ネットワークの異常

Puledda ら(2019) Imaging the Visual Network

片頭痛患者の脳画像研究を総括した論文では、プルビナールを中心とした視床の異常が、光過敏や視覚異常に深く関係していると繰り返し確認されています。


⑤ ドライアイの光過敏は「脳が敏感になる」現象

Rosenthal ら(2016) Dry eye and photophobia

ドライアイの光過敏は、角膜の刺激だけが原因ではありません。脳の“痛みネットワーク”が過敏化する「中枢感作」によって、光に対するつらさが増幅することが示されています。

眼瞼痙攣の患者さんにドライアイが多い理由のひとつと言えます。


⑥ ボトックス治療が「脳の過敏さ」を静める

Moulton ら(2019) BoNT-A reduces brain activity

ボツリヌス毒素A治療を受けた光過敏患者では、痛み関連領域の脳活動が低下することが確認されました。

これはボトックスが単なる“筋肉の治療”ではなく、痛みや光過敏の改善にも脳レベルで作用している可能性を示唆します。


⑦ 眼瞼痙攣患者の脳で見つかった「光刺激への反応異常」

Yang ら(2022) SC & LGN dysfunction

眼瞼痙攣患者では、光刺激に対する 上丘・外側膝状体・視覚皮質の反応が健康な人と異なることがfMRIで示されました。光刺激が運動回路に結びつきやすい“下地”が脳に存在しているのです。


⑧ 眼瞼痙攣患者に見られた「視床核の萎縮」

Xu ら(2024) Progressive thalamic atrophy

眼瞼痙攣患者を数年追跡すると、視床核に徐々に萎縮が進む人がいるという報告があります。羞明の慢性化と関係している可能性が考えられます。


⑨ 皮質-基底核ネットワークの異常

Zhang ら(2023) Cortico-basal ganglia network alterations

眼瞼痙攣では、まばたきの制御に重要な「皮質-基底核ネットワーク」のつながりが異常になっていることがわかりました。

光刺激→視床→皮質→基底核→瞬目という流れのどこかで、情報が過剰に増幅されてしまうことを示しています。


◎ 総括:眼瞼痙攣の羞明は「光」と「脳」の両方の病気

これらの研究を合わせてみると、次のようにまとめられます。

  • 羞明は、単なる“眩しさ”ではなく

    網膜 → 視床プルビナール → 大脳皮質 → 基底核 → まばたき回路

    へと連なる広範な神経ネットワークの異常によって生じる。

  • 眼瞼痙攣の患者さんでは、この過敏な光の入力が「瞬目・閉瞼痙攣」として出やすい。

  • ドライアイ、片頭痛、ストレス、睡眠不足などが羞明をさらに悪化させる。

  • ボトックス治療や遮光眼鏡は、末梢と中枢の両方へ良い影響を与える可能性がある。

羞明とは「目だけの問題」でも「筋肉だけの問題」でもありません。

目と脳を結ぶ“感覚―運動ネットワーク全体の過敏化”として理解することが大切です。

今後も研究が進めば、より効果的な治療法が見つかると期待されます。当院でも、羞明を訴える患者さんに対し、眼表面(ドライアイ)・遮光眼鏡・ボトックス治療・生活指導を組み合わせて、個々に合わせた治療を進めています。

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