眼科医が「申告漏れ業種別2位」とされた背景を考える
― 医療経済の現実と、私たちが向き合うべき課題 ―
国税庁が発表した最新の税務調査結果により、所得税の申告漏れにおいて、1件あたりの漏れ所得額が多い業種の第2位に「眼科医」が挙げられたことが報じられました。これは、調査対象全体36万件超、申告漏れ総額約9300億円、追徴税額約1430億円という、過去最大規模の調査結果の中で示された統計です。
この「業種別2位」という表現は、眼科医全体が不正をしているかのような印象を与えかねず、多くの眼科医にとって強い違和感を伴うものでした。実際には、この順位は「1件あたりの平均漏れ金額」に基づくものであり、該当した眼科医の人数や、眼科医全体に占める割合は公表されていません。
なぜ眼科医が上位に挙げられたのか
統計上の背景として考えられる理由はいくつかあります。
第一に、眼科は保険診療と自費診療が混在しやすく、会計構造が複雑である点です。白内障手術、レーザー治療、コンタクトレンズ関連、自費検査など、収入の性質が異なる項目が日常診療に並行して存在します。
第二に、開業医の多くが税務を税理士に委ねている一方で、医療特有の収益構造が十分に共有されていない場合、結果として計上漏れや処理ミスが生じやすいことも否定できません。
ただし、国税庁のいう「申告漏れ」は、必ずしも意図的な脱税を意味するものではなく、事務的な誤りや解釈の違いによるものも多数含まれる点は、冷静に理解する必要があります。
眼科院長・清澤のコメント
― 現場の医療経済を無視した議論になっていないか ―
今回の報道を目にして、私は強い危機感を覚えました。
現在の日本の医療経済状況下では、白内障手術以上の高度な手術を行わず、眼内レンズ差益や特殊技術料も生じない、ごく一般的な眼科診療所が「普通に黒字経営を続けること」は、もはや容易ではありません。
レーシックや眼内IOL挿入など、公定価格のない自由診療が一部に存在することが、あたかも眼科全体の収益構造を代表しているかのように語られがちですが、町にある多くの眼科診療所や中小病院の眼科は、実際には赤字、あるいは極めて薄利の経営を強いられているのが現実です。
そのような中で、「申告漏れ業種別2位」という見出しだけが独り歩きすれば、あたかも眼科医全体が高収益で、不適切な税務処理を行っているかのような誤解を社会に与えかねません。
そもそも、今回指摘された眼科医が眼科医全体の何%に相当するのか、その情報は公表されていません。仮にごく一部であったとしても、業界全体の問題として扱われてしまう構図には、強い違和感を覚えます。
しかし同時に、眼科医療を担う団体や学会が、この問題を「他人事」とせず、説明責任と再発防止策を真剣に検討すべき時期に来ていることも事実でしょう。
税務の透明性、会計教育、医療経済の実態発信――これらは、今後の眼科医療の信頼を守るために避けて通れない課題です。
おわりに
今回の統計は、眼科医療の実態や医療経済の逼迫を十分に反映したものとは言い切れません。しかし、社会からどう見られているかを知る「警鐘」であることも確かです。
真面目に地域医療を支えている多くの眼科医が、不当に評価されることのないように。
そのためにも、私たち自身が現状を直視し、発信し、改善していく必要があると感じています。



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