ドライアイの診療では、「涙の量」「涙の質」「まぶたの状態」「角膜の知覚や炎症」など、いくつかの要素が重なって症状が出ていることが多く、治療も段階的に考えていく必要があります。今回ご紹介するのは、涙の量が少なく、片眼に強い角膜上皮障害(SPK)がみられ、痛みがなかなか改善しなかった症例についてです。
この患者さんは、診察時に涙液メニスカスが低く、明らかに涙の量が不足していました。また、片眼により強いSPKがあり、しみる・痛むといった自覚症状がありました。まず基本的な治療として、人工涙液(ヒアレイン)と角膜保護・修復作用を期待したトレバミピド点眼を処方し、さらに涙を目の表面にとどめる目的で涙点プラグを挿入しました。
しかし、2週間後の再診でも、痛みの訴えが残り、SPKの改善も十分ではありませんでした。この段階で重要なのは、「治療が間違っていた」と考えるのではなく、「涙の量以外の要素が関与している可能性」を考えることです。
そこで次の段階として、①毎日の温罨法のあとに、瞼のシャンプーを用いたリッドハイジーン(まぶたの清拭)を指示しました。まぶたの縁には脂の出口(マイボーム腺)があり、ここが詰まったり、まつ毛の根元に炎症やダニが関与したりすると、涙の質が悪化し、角膜への刺激が続きます。温めてから清潔に保つことは、涙の「質」を改善するためにとても重要です。
さらに②として、夜間の閉瞼不全の可能性を考え、就寝時に絆創膏を用いて確実にまぶたを閉じる方法を指導しました。睡眠中に目がわずかに開いているだけでも、角膜は乾燥し、朝の痛みやSPKの原因になります。特に片眼だけ症状が強い場合、この夜間の乾燥が関与していることは少なくありません。
ここまでの対応は、治療として適切であり、順序としても自然な流れです。多くの場合、この段階で数週間かけて徐々に痛みや角膜所見は改善していきます。
それでも改善が乏しい場合には、さらにいくつかの選択肢があります。例えば、角膜や眼表面の炎症を抑えるために、短期間の弱いステロイド点眼や、炎症を調整する点眼薬を追加することがあります。また、就寝前に眼軟膏を併用して、夜間の乾燥をさらに防ぐ方法もあります。
また、角膜の傷の程度に比べて痛みが強い場合には、「目の神経が過敏になっている状態」が関与していることもあります。その場合は、治療には時間がかかること、痛みと傷の大きさが必ずしも一致しないことを丁寧に説明し、不安を減らすこと自体が治療につながります。
ドライアイの治療は一つの薬で一気に治すものではなく、原因を一つずつ整えていく積み重ねです。現在行っている治療は、そのための大切な土台です。焦らず、段階的に一緒に改善を目指していきましょう。



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