黄斑の血管の病気は「加齢黄斑変性」だけではありません
― 日本の眼科に掲載された4人の専門医による解説から ―
「黄斑に血管が増えている」「黄斑がむくんでいる」と言われると、多くの方は加齢黄斑変性を思い浮かべるかもしれません。確かに代表的な病気ですが、実際には黄斑部の血管の異常には、いくつもの原因とタイプがあります。
最近の『日本の眼科』では、この点に注目し、4人の眼科医がそれぞれ異なる病態について、臨床の現場に即した解説を行っています。ここでは、その内容を患者さん向けに分かりやすくご紹介します。
① 網膜静脈閉塞症に伴う黄斑部毛細血管瘤 平野佳男 先生
網膜静脈閉塞症は、目の中の静脈が詰まることで起こり、黄斑にむくみ(黄斑浮腫)を生じやすい病気です。現在は抗VEGF薬の注射が広く使われていますが、すべての方に十分効くわけではありません。
平野佳男先生は、その理由の一つとして、黄斑にできる毛細血管瘤(小さな血管のこぶ)や拡張した異常血管の存在を指摘しています。これらは特殊な造影検査で確認でき、原因となる血管を狙ったレーザー治療が有効な場合があります。注射が効かないときにも、治療の選択肢が残されていることは大切な点です。
② 糖尿病網膜症に伴う黄斑部毛細血管瘤 平野隆雄 先生
糖尿病網膜症で最も早く現れる眼底所見の一つが、毛細血管瘤です。非常に小さな変化ですが、1つでも見つかると「軽症の網膜症」と診断されます。
平野隆雄先生は、毛細血管瘤が生じる背景として、血管を支える細胞の障害や炎症など、複数の要因が関与していることを解説しています。
近年は、造影検査を行わなくても、OCTやOCTAといった負担の少ない検査で詳しく評価できるようになり、さらにAI技術の発展も期待されています。視力に影響する場合にはレーザー治療が中心ですが、抗VEGF薬が有効な例もあることが示されています。
③ 黄斑部毛細血管拡張症(MacTel) 大音壮太郎 先生
黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)は比較的まれな病気です。
大音壮太郎先生は、この病気が1型と2型でまったく異なる性質をもつことを強調しています。1型は中年男性に多く、片眼に起こる先天的な血管異常で、レーザーや注射治療が効果を示すことがあります。一方、2型は両眼に起こり、血管よりも網膜の神経細胞の異常が本質と考えられています。
確立した治療法はありませんが、正確に診断し、加齢黄斑変性など他の病気と区別することが重要です。
④ 3型黄斑新生血管(網膜血管腫状増殖;RAP) 片岡恵子 先生
3型黄斑新生血管は、加齢黄斑変性の中でも特殊なタイプです。
片岡恵子先生は、この病気では血管が網膜の内側から外側へ伸びていくという特徴的な進み方をすることを、OCTやOCTA画像を用いて解説しています。
高齢の女性に多く、治療を行っても黄斑が萎縮しやすく、視力予後が厳しいこと、また反対の目にも病気が起こりやすい点が重要です。早い段階でこのタイプと診断し、今後の見通しを患者さんと共有することが、実臨床では欠かせません。
おわりに
黄斑の血管の病気は一括りにはできず、原因や経過、治療の考え方が大きく異なります。
今回ご紹介した4人の先生方の解説は、「なぜ治りにくいのか」「これから何に注意すべきか」を理解する手がかりを与えてくれます。
当院でも、画像を丁寧に読み取り、患者さん一人ひとりに合った説明と治療を心がけています。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
※本記事は『日本の眼科』掲載の臨床講座
平野佳男先生/平野隆雄先生/大音壮太郎先生/片岡恵子先生
の解説内容を参考に、一般向けに再構成したものです。



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