GLP-1作動薬(GLP-1受容体作動薬)と「慢性の咳」の関連が、最近の大規模データ解析で指摘されました。慢性咳嗽とは一般に8週間を超えて続く咳を指します。Chest Journal
今回の原著(米国の電子カルテデータを用いた後ろ向きコホート研究)では、2型糖尿病の成人でGLP-1受容体作動薬を開始した群は、他の2型糖尿病の二次薬(DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、SU薬など)を開始した群に比べて、新規の慢性咳嗽が診断されるリスクが有意に高いと報告されました。具体的には、全体比較で**調整ハザード比1.12(約12%増)でした。JAMA Network さらに、逆流性食道炎(GERD)の既往がある人を除外しても関連が残り、解析によっては1.29(約29%増)**と強まっています。JAMA Network
ここで重要なのは、これは「因果関係の証明」ではなく、あくまで「関連(association)」である点です。JAMA Network
オゼンピック、マンジャロは“くくり”に入るのか
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オゼンピック(一般名:セマグルチド)は、添付文書でも「ヒトGLP-1受容体作動薬」と明記される典型的なGLP-1受容体作動薬です。従って、この研究でいう「GLP-1受容体作動薬」という“くくり”には基本的に含まれると考えてよい薬剤です。FDA Access Data+1
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マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、いわゆるGIP/GLP-1受容体作動薬(デュアル作動薬)で、厳密には「GLP-1受容体作動薬“単独”」とは分類が異なります。Lilly そのため、この原著が「GLP-1RAのみ」を対象に定義している場合、マンジャロは対象外になっている可能性があります(少なくとも抄録部分には、個別薬剤名までは列挙されていません)。JAMA Network
「どの程度の咳が予測されるか」
現時点で言えるのは、“咳が何%起こる”という絶対頻度を個人に予測できる段階ではないということです。原著が示したのは、診断としての慢性咳嗽が「相対的に」増える、という結果(ハザード比)です。JAMA Network
一方で、相対増加が12%~29%と聞くと大きく感じますが、もともとの発生頻度(絶対リスク)が低ければ、増える人数は小さく見えることもあります。したがって患者さんへの説明としては、「多くの人が必ず咳で困る薬」と断定するより、服薬開始後に咳が長引く場合に“薬との時間的関係”を確認する、という姿勢が現実的です。
眼科院長としてのコメント(外来での実務)
糖尿病治療薬は、全身の利益が大きい一方、思わぬ症状が生活の質を下げることがあります。GLP-1系薬剤を始めてから
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咳が8週間以上続くChest Journal
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食後・就寝時に悪化する、胸やけやのどの違和感がある
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息切れ、発熱、血痰などがある
といった場合は、自己判断で中止せず、処方医に相談してください。逆流対策や他の原因(喘息、後鼻漏、薬剤性など)の見直しで改善することもあります。なお眼科受診時にも、糖尿病薬の種類は眼底管理(全身管理の状況把握)に有用ですので、気になる症状があれば遠慮なくお知らせください。
原著(引用)
Gallagher TJ, Razura DE, Li A, et al. Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists and Chronic Cough. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. Published online November 26, 2025. doi:10.1001/jamaoto.2025.4181 JAMA Network



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