近視・強度近視

[No.4314] 日本の小児の近視進行予防に関する総説:記事紹介

Ophthalmology updateというメールマガジンに小児の近視進行予防に関する総説が掲載されました。私は一日2時間の戸外活動。私費診療での低濃度アトロピン点眼、そしてこれも私費でのオルソケラトロジーの3種を主に指導しており、今後は多焦点眼鏡レンズの発売をもってこれも治療の選択肢に入れてゆこうと考えています。今回は京都府立医大稗田先生の総説の要点を紹介いたします。

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はじめに

近視は今、世界的に増え続けており、将来は世界人口の約半数が近視になると予測されています。特に問題となるのは、子どもの頃に始まる近視です。小児期の近視は年齢とともに進みやすく、強くなると将来、網膜や視神経の病気につながる可能性があります。そのため「早めに気づき、進行を抑える」ことがとても重要になります。本稿では、近視が進む仕組みと、現在行われている進行抑制治療について、最新の知見をもとに分かりやすく整理します。

近視進行のしくみ

近視が進む最大の原因は、眼球が前後に伸びてしまう「眼軸長の伸長」です。眼球が伸びすぎると、網膜が薄くなり、将来、近視性黄斑症などの重い病気を起こしやすくなります。

最近の研究では、屋外で過ごす時間が少ないことや、近くを見る作業を長時間続ける生活習慣が、近視を進める大きな要因であることが分かってきました。そのため、治療だけでなく生活環境への配慮も重要です。

薬による治療(低濃度アトロピン点眼)

近視進行抑制の薬として、もっとも確かな効果が示されているのが「低濃度アトロピン点眼」です。かつて使われていた高濃度アトロピンは、副作用が強く日常生活に支障が出るため使われなくなりました。しかし、濃度を大きく下げることで、安全性と効果のバランスが取れることが分かってきました。

シンガポールや香港、日本で行われた大規模研究により、0.01~0.05%といった低濃度アトロピンが、近視の進行を確実に抑えることが示されています。ただし、点眼をやめると近視が再び進みやすくなる「リバウンド」が起こることもあり、治療の中止は慎重に判断する必要があります。現在、日本では0.025%アトロピン点眼が保険外診療として用いられています。

光学的な治療(眼鏡・コンタクトレンズ)

薬以外にも、特別な構造を持つ眼鏡やコンタクトレンズが近視進行抑制に役立つことが分かっています。

多焦点構造を持つ特殊眼鏡レンズは、網膜の周辺部に「近視を抑える刺激」を与えることで、眼軸の伸びを抑えます。また、近視進行抑制用ソフトコンタクトレンズや、夜間に装用して角膜の形を整えるオルソケラトロジーも、一定の効果が確認されています。これらは、生活スタイルや年齢に応じて選択されます。

新しい治療の可能性

現在、低出力の赤色光や紫色光を用いた治療も研究段階にあり、将来の選択肢として期待されています。また、点眼治療と眼鏡・コンタクト治療を組み合わせることで、より高い効果が得られる可能性もあり、今後の研究が待たれます。

治療効果の評価

治療の効果を判断するには、「近視の度数」だけでなく「眼軸長」を測定することが重要です。近年の機器では眼軸長を非常に正確に測定できるようになり、わずかな変化も把握できます。

特に6~10歳の学童期は眼軸が伸びやすく、近視のある子どもほど低学年での進行が速いことが分かっています。そのため、年齢や体質、家族歴を考慮しながら、平均的な成長と比較して評価することが大切です。

おわりに

近視進行抑制は、点眼、眼鏡、コンタクトレンズ、生活習慣の改善など、さまざまな方法を組み合わせて行う時代になっています。今後は一人ひとりに合った治療を選び、長期的に目の健康を守るための指針づくりが重要になるでしょう。


参考 稗田 牧「近視進行抑制に関するレビュー」京都府立医科大学 眼科学教室

小児の近視進行を防ぐための5つの方法:

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