全身病と眼

[No.4377] 米軍退役軍人の自殺リスクを高める「社会的要因」とは何か ― 目の前の症状だけでは見えない背景 ―

米軍退役軍人の自殺リスクを高める「社会的要因」とは何か

目の前の症状だけでは見えない背景

背景

自殺は米国における深刻な公衆衛生上の課題です。特に米軍退役軍人は、全成人の7%未満であるにもかかわらず、自殺死亡の約14%を占めています。これまでは心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病などの精神疾患が主な原因として注目されてきましたが、近年「健康の社会的決定要因(SDOH)」――人がどのような環境で生き、働き、支え合っているか――が自殺リスクに深く関わることが指摘されています

目的

本研究の目的は、米国退役軍人において、不利な社会的条件がどの程度、自殺念慮や自殺行動と関連しているかを、全国代表サンプルを用いて明らかにすることです。

方法

4,000人の米軍退役軍人を対象に、教育・経済状況、医療アクセス、住環境、社会的つながりなど21項目からなる「不利なSDOH(社会的健康決定要因)」の累積スコアを算出しました。そして、

  • 過去1年の自殺念慮
  • 将来の自殺意図
  • 生涯の自殺未遂
    との関連を統計的に解析しました。

結果

結果は非常に明確でした。不利なSDOHが増えるほど、

  • 過去1年の自殺念慮は約2.1
  • 将来の自殺意図は約2.2
  • 生涯の自殺未遂は約1.8

と有意に増加していました。
特に、SDOHスコアが最も悪い上位5%の退役軍人は、最も良好な下位5%と比べて、すべての自殺関連指標が20倍以上に達していました。

さらに、精神疾患の既往がある退役軍人では、これらの社会的要因の影響がより強く現れていました。

結論

この研究は、自殺予防には精神医療だけでなく、住居の安定、社会的つながり、医療へのアクセスといった「生活の土台」への支援が不可欠であることを示しています。早期のスクリーニングと、地域社会を含めた包括的支援の重要性が強調されました。

眼科医としての清澤のコメント

私は米軍退役軍人の健康診断に眼科医として関わっており、視覚の更新時には自殺予防や性暴力に関する講習を特に受けさせられています。自殺念慮を疑われる例では別途その報告が求められています。幸い、報告を必要とするほどの自殺念慮を訴える方にはまだ出会っていません。しかし、本研究を読むと、「異常がない」という事実の裏に、社会的孤立や生活不安が潜んでいる可能性を強く意識させられます。眼科診療であっても、患者さんの背景に目を向ける姿勢が、命を守る第一歩になるのだと感じました。

出典

Pietrzak RH, Fischer IC, Nyitray B, et al.
Social Determinants of Health and Suicide Risk Among US Veterans.
JAMA Psychiatry. Published online December 23, 2025.
doi:10.1001/jamapsychiatry.2025.3883

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