宇宙飛行で進む視神経乳頭浮腫は予測できるのか
― 宇宙医学とOCTが示した新しい可能性 ―
背景
宇宙空間では重力がほとんどないため、体液が下半身から頭部へ移動します。この「頭側体液シフト」により、脳や眼の周囲の圧環境が変化し、視神経乳頭浮腫が起こりやすくなることが知られています。これは**宇宙飛行関連神経眼症候群(SANS)**の代表的な所見で、長期宇宙滞在を行う宇宙飛行士の約6割に認められると報告されています。ただし、誰がどの程度重症化するのかは個人差が大きく、事前に予測することは困難でした。
目的
今回紹介する研究は、「宇宙飛行の初期に見られる視神経乳頭浮腫の程度が、ミッション後半の重症度を予測できるか」を検討することを目的としています。もし早期に将来のリスクが分かれば、重点的な観察や対策が可能になり、限られた医療資源を有効に使うことができます。
方法
対象は**国際宇宙ステーションに約6か月滞在した43名の宇宙飛行士です。飛行前と飛行中にOCT(光干渉断層計)検査を行い、視神経乳頭周囲の全網膜厚(TRT)**を定量的に測定しました。
特に、飛行30日目(FD30)と150日目(FD150)におけるTRTの変化量(ΔTRT)を比較し、初期変化が後期の変化とどの程度関連するかを統計解析で検討しました。
結果
その結果、FD30とFD150のΔTRTには非常に強い相関が認められました。飛行30日目にΔTRTが20μm未満であった眼は、150日目に臨床的に問題となるレベル(55μm以上)に進行する確率が**わずか2%**でした。
一方、30日目に中等度以上の浮腫を示した場合は、後半に大きく進行する可能性が高いことも分かりました。解析の結果、30日目に約30μmを超えるかどうかが、将来の重症化を見分ける一つの目安になると示されました。
結論
この研究から、宇宙飛行開始後およそ1か月時点のOCT検査が、その後の視神経乳頭浮腫の進行を予測する有力な手段となり得ることが示されました。早期にリスクの低い宇宙飛行士を見極めることで、過度な検査を減らし、長期・深宇宙ミッションに向けた医療体制の合理化につながると考えられます。
これは宇宙医学にとどまらず、眼科における「定量評価による予測医療」の好例とも言える成果です。
出典
Carter KJ, Ferguson CR, O’Grady CS, et al.
Prediction of Optic Disc Edema Progression During Spaceflight.
JAMA Ophthalmology. 2026;144(1):34-40.
doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.4635
(※研究は米国航空宇宙局の宇宙医学プログラムの一環として行われています)



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