高校生の心の健康と自殺リスク ― 米国の大規模調査が示した現実と「支え」の重要性
思春期の子どもたちの心の健康は、世界的に大きな課題となっています。米国では新型コロナ流行以前から、高校生の間で気分の落ち込みや将来への絶望感、自殺を考える経験が多く報告されてきました。こうした傾向は流行後も改善せず、特に女子生徒や性的少数者の生徒で深刻であることが知られています。自殺は、14〜18歳の若者において主要な死因の一つであり、実際に亡くなるケースだけでなく、「考えたことがある」「試みたことがある」若者は、はるかに多いのが現実です。
今回紹介する研究は、米国疾病対策センターが実施した2023年の全国調査をもとに、高校生の心の健康状態と自殺リスクの実態を明らかにするとともに、それらを和らげる要因、いわば「守りの要因」がどの程度関係しているのかを詳しく分析したものです。問題の深刻さを示すだけでなく、「何が助けになるのか」に焦点を当てている点が、この研究の大きな特徴です。
調査では、全米の高校生を対象に、長く続く強い悲しさや希望のなさを感じた経験、最近の心の健康状態、自殺を真剣に考えたことがあるか、実際に自殺を試みたことがあるかなどが尋ねられました。あわせて、睡眠時間、家庭や周囲の大人からの見守り、学校での人間関係、運動やスポーツへの参加といった日常生活の要素と、心の健康との関連が統計的に解析されています。
その結果は、多くの大人にとって衝撃的なものでした。調査対象となった高校生のうち、約4割が長期間にわたって強い悲しさや絶望感を感じていたと回答し、約3割は「最近の心の健康があまり良くない」と感じていました。さらに、5人に1人が自殺を真剣に考えた経験があり、約1割は実際に自殺を試みたことがあると報告しています。これらの数字は、若者の心の不調が決して特別なものではなく、身近な問題であることを示しています。
一方で、この研究が示したもう一つの重要な点は、生活環境や人との関わりが、こうしたリスクを確実に下げているという事実です。十分な睡眠がとれている生徒、学校で安心できるつながりを感じている生徒、運動やスポーツを通じて体を動かしている生徒、そして家庭や周囲の大人から基本的な支援を受けている生徒ほど、心の不調や自殺関連のリスクが低い傾向にありました。特別な治療や専門的介入だけでなく、日常の積み重ねが、若者の心を守る大きな力になっていることが、データから裏付けられたのです。
この研究は、若者の心の健康を守るためには、個人の問題として片付けるのではなく、家庭、学校、地域社会が一体となって支える視点が不可欠であることを教えてくれます。十分な睡眠、安心できる居場所、人とのつながり、そして基本的な生活の安定。こうした一見当たり前に思える要素こそが、若者の命と心を支える土台であることを、私たちは改めて認識する必要があります。
出典
Mental Health and Suicide Risk Among High School Students and Protective Factors — Youth Risk Behavior Survey, United States, 2023
Supplements, October 10, 2024; 73(4):79–86
眼科医・清澤のコメント
眼科外来でも、思春期の心の不調は、視力低下や眼精疲労、原因がはっきりしない目の訴えとして現れることがあります。今回の報告を読むと、症状の背後にある生活リズムや心の疲れに、周囲の大人がどれだけ目を向けられるかが重要だと感じます。目だけでなく、その子の生活や心の状態にも想像力を働かせることが、医療者にとっても大切なのだと思います。私はこのような深い悩みを疾患の底に持つ眼瞼痙攣やビジュアルスノウなどの患者さんを対象に医院での診療に神経心理カウンセリングを取り入れています。同じ環境にあってもそれをどうとらえるかで心の持ちようは変わりうると思っています。(この元記事は進悦君に紹介されました。)



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