新型コロナウイルス感染症が流行していた頃、若いスポーツ選手が突然亡くなったという報道を記憶している方も多いと思います。その際に一部で話題となったのが、COVID-19ワクチン接種後にまれに起こる心筋炎でした。この問題について、「なぜごく一部の若年者、特に男性に起こるのか」という点を、免疫の仕組みから解き明かそうとした研究が、医学誌 JAMA の医療ニュースとして紹介されました。
mRNAワクチン関連心筋炎は、100万回の接種あたりおよそ30例とされる非常に稀な副作用で、多くは軽症で自然に回復します。ただし30歳未満の男性ではやや頻度が高いことが知られており、社会的な不安を生んできました。さらにmRNA技術は今後、感染症だけでなくがん治療などにも広く応用されることが期待されているため、その安全性をより深く理解することが重要になっています。
この研究を主導したのは、スタンフォード大学 心血管研究所のジョセフ・C・ウー医師です。彼は、心臓病の患者さんからワクチンの安全性について繰り返し質問を受ける中で、「単に稀だと説明するだけでなく、何が起きているのかを科学的に説明したい」と考え、研究に取り組みました。
研究の中心となったのは、免疫反応を調整するサイトカインと呼ばれる物質です。研究者らは、ワクチン接種後の健康な人と、ワクチン関連心筋炎を起こした人の血液データを再解析し、どのサイトカインが特徴的に増えるかを詳しく調べました。さらに、マウスモデルや、ヒトiPS細胞から作成した心筋細胞・心臓オルガノイドを用いて、ワクチン刺激に対する心臓の反応を再現しました。
その結果、CXCL10とIFN-γという2つのサイトカインが、接種後早期に上昇し、心筋炎を起こした人で特に高値を示すことが分かりました。これらを心筋細胞に加えると、心臓の収縮力が低下し、不整脈様の変化や炎症関連遺伝子の活性化が起こりました。一方で、これらのサイトカインを中和すると、心筋障害の指標は明らかに軽減しました。
また、心筋炎が若い男性に多い理由として、女性ホルモンの心臓保護作用に着目し、大豆由来成分であるゲニステインの効果も検討されました。若い雄マウスにゲニステインを投与すると、サイトカインの急上昇と心筋障害が抑えられましたが、ワクチンによる抗体産生は低下しませんでした。この結果は、性差の一因を示唆する興味深い所見といえます。
もっとも、この研究は動物モデルや細胞実験が中心であり、人での心筋炎を完全に再現しているわけではありません。他の免疫経路の関与も否定できず、今後は前向きなヒト研究が必要とされています。研究者自身も、心筋炎は極めて稀であり、この研究がワクチンの危険性を示すものではないことを強調しています。
今回の研究は、ワクチン関連心筋炎を過度に恐れるためのものではなく、「なぜ起こるのか」を理解し、将来さらに安全な医療につなげるための一歩といえるでしょう。
出典:Jennifer Abbasi. COVID-19 Vaccine–Associated Myocarditis Mechanisms. JAMA Medical News, 2026年2月6日公開. DOI:10.1001/jama.2025.25866
眼科医・清澤のひとこととして、原因が分からない不安は事実以上に人を怖がらせますが、医学はこのように少しずつ仕組みを明らかにすることで、安心して医療を受けられる土台を作ってきたのだと感じます。



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