全身病と眼

[No.4470] 治療抵抗性うつ病に「ケトジェニックダイエット」は効くのか? ――JAMA精神医学に掲載されたランダム化試験より

治療抵抗性うつ病に「ケトジェニックダイエット」は効くのか?

――JAMA精神医学に掲載されたランダム化試験より

うつ病は決して珍しい病気ではありませんが、薬をきちんと服用しても十分な改善が得られない方がいます。異なる抗うつ薬を2種類以上試しても効果が乏しい場合、「治療抵抗性うつ病(TRD)」と呼ばれます。こうした方々に対して、新しい治療法の開発が求められています。

近年注目されているのが「ケトジェニックダイエット(KD)」です。これは炭水化物を極端に減らし、脂質を多く摂る食事法で、体のエネルギー源をブドウ糖から「ケトン体」に切り替えるものです。てんかん治療での実績は知られていますが、うつ病にも効果があるのではないかと考えられてきました。ケトン体は脳のエネルギー代謝や神経伝達物質、炎症、腸と脳の関係などに影響を与える可能性があり、うつ病の新しい理解とも関連づけられています。

しかし、これまでの報告は症例報告や小規模研究が中心で、きちんと比較した試験はほとんどありませんでした。そこで今回、英国でランダム化比較試験が行われ、その結果が2026年2月にJAMA精神医学にオンライン掲載されました。

この研究では、18歳から65歳までの治療抵抗性うつ病患者88名が対象となりました。うつの重症度はPHQ-9という質問票で15点以上と、比較的重い状態の方々です。参加者は無作為に2群に分けられました。ひとつは1日炭水化物30g未満のケトジェニックダイエット群、もうひとつは植物性食品を増やし、飽和脂肪を不飽和脂肪に置き換える対照食群です。どちらの群も6週間の食事介入を受け、栄養サポートも同様に提供されました。主要な評価項目は、6週間後のPHQ-9スコアの変化でした。

結果は興味深いものでした。両群とも、うつ症状は大きく改善しました。6週間後のPHQ-9の平均変化は、KD群で−10.5点、対照群で−8.3点でした。統計的には、KD群の方がわずかに大きな改善を示しました(群間差−2.18点、P=0.05)。しかし12週時点では差ははっきりせず、副次的な評価項目(不安、快楽喪失、認知機能、生活の質など)では群間差は認められませんでした。幸い、重大な副作用は報告されませんでした。

では、この結果をどう考えるべきでしょうか。確かに、ケトジェニックダイエットは6週間という短期間では対照食よりもやや強い抗うつ効果を示しました。ただしその差は大きいとは言えず、臨床的にどこまで意味があるかは慎重な判断が必要です。また、対照群でも大きな改善が見られており、食事療法そのものやサポート体制の効果、いわゆるプラセボ効果も影響している可能性があります。

結論として、この研究は「ケトジェニックダイエットが治療抵抗性うつ病の補助療法になりうる可能性」を示しましたが、決定的な治療法とまでは言えません。今後はより大規模で長期の研究が必要です。


出典

Gao M, Kirk M, Knight H, et al. Ketogenic Diet for Treatment-Resistant Depression: A Randomized Clinical Trial. JAMA Psychiatry. Published online February 4, 2026. doi:10.1001/jamapsychiatry.2025.4431


眼科医 清澤のコメント

食事と脳の関係は、近年ますます注目されています。私たち眼科医も、視覚だけでなく「脳の健康」という観点を無視できません。ただし、極端な食事法を自己判断で始めることは勧められません。うつ病の方は必ず主治医と相談のうえ、安全性と継続可能性を考えて取り組んでいただきたいと思います。食事は魔法ではありませんが、体と脳を支える重要な土台であることは確かです。

【追記:うつ病の眼症状】

うつ病というと「気分の落ち込み」や「やる気が出ない」といった心の症状が注目されがちですが、実は“目の不調”として現れることもあります。たとえば、目が重たい、かすんで見える、ピントが合いにくい、まぶしさを強く感じる、涙が出やすい、あるいは逆に乾きやすいといった症状です。パソコンやスマートフォンの画面を見るのがつらくなり、読書が続かないという訴えも少なくありません。

これらは自律神経のバランスの乱れや、脳内の神経伝達物質の変化が関係していると考えられています。眼科で詳しく調べても大きな異常が見つからないのに見え方が不調な場合、心の状態が影響している可能性もあります。目の症状が続くときは、体と心の両面から考えることも大切です。

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