日本は世界でも最も急速に高齢化が進む国の一つであり、2024年には65歳以上が人口の29.3%に達しています。認知症は高齢者の障害調整生存年(DALYs)の主要因であり、社会的・経済的負担は年々増加しています。抗アミロイドβ抗体などの新規治療薬も登場していますが、効果や費用の面で限界があり、発症後治療だけでなく「予防」がより重要視されています。こうした背景のもと、日本特有の疫学データを用いて、認知症の“予防可能な割合”を定量化した研究が報告されました。
【目的】
本研究の目的は、日本における14の修正可能な認知症リスク因子の寄与を明らかにすることです。対象となったのは、教育歴の低さ、難聴、高LDLコレステロール、うつ病、外傷性脳損傷、身体活動不足、喫煙、糖尿病、高血圧、肥満、過剰飲酒、社会的孤立、大気汚染、未治療の視力障害の14項目です。国際的な推計は存在していましたが、日本全国を代表するデータに基づく包括的な推定はこれまで不足していました。
【方法】
日本の全国調査やコホート研究による最新の有病率データを用い、2024年ランセット認知症委員会報告で示された各因子の相対危険度を組み合わせ、人口帰属割合(PAF)を算出しました。さらに、各リスク因子を10%または20%減少させた場合に、日本全体の認知症有病率がどの程度減少するかをモデル化しました。
【結果】
14因子を統合した加重複合PAFは38.9%でした。つまり、日本の認知症の約4割が理論上は予防可能である可能性が示されたことになります。単独因子では、難聴(6.7%)、身体活動不足(6.0%)、高LDLコレステロール(4.5%)が大きな寄与を示しました。全リスク因子を10%減少させれば約20万8千例、20%減少させれば約40万7千例の認知症を予防できると推計されています。
【結論】
日本の認知症予防戦略では、聴覚ケア、身体活動の促進、脂質管理を優先すべきであることが示されました。特に難聴が最大の寄与因子であったことは、日本独自のデータ解析から得られた重要な知見です。2024年施行の認知症基本法の実装において、具体的な政策優先順位を示すエビデンスとなります。
【清澤のコメント】
ランセット委員会の国際報告では視覚障害も修正可能リスクとして上位に挙げられていましたが、日本データを用いた今回の解析では、未治療の視力障害は主要因としては浮かび上がりませんでした。日本では眼科医療へのアクセスが比較的良好であることが影響している可能性があります。しかし、視覚・聴覚の維持が高齢者の活動性や社会参加を支える基盤であることに変わりはありません。眼科医としては、視機能の早期介入もまた認知症予防の一翼を担うと考え、診療を続けたいと思います。
【出典】
Wasano K, Jørgensen K. Population attributable fractions of 14 modifiable risk factors for dementia in Japan and projected impact of risk reduction. The Lancet Regional Health – Western Pacific. 2026;66:101792.(オープンアクセス)



コメント