食事と“もの忘れ”の関係は本当にあるのか?
―16万人研究が示した認知機能と食事の深い関係―
近年、「食事が脳の健康に影響する」という話題を耳にすることが増えました。しかし実際には、どの食事がどれほど影響するのかについては研究ごとに結果が一致せず、確かな結論は得られていませんでした。今回、16万人以上を対象とした大規模研究により、この問題に対してかなり明確な方向性が示されました。
■ 背景
認知症は世界的に増加しており、2050年には患者数が1億5,000万人に達すると予測されています。そのため、発症後の治療よりも発症前の予防が重要視されています。生活習慣の中でも食事は修正可能な重要因子であり、これまでにも赤身肉や加工肉の多い食事が認知機能低下と関連する可能性が指摘されてきました。しかし研究間のばらつきや評価方法の違いにより、確定的な結論には至っていませんでした。
■ 目的
本研究の目的は、健康的な食事パターンが主観的認知機能低下(SCD)および客観的な認知機能とどのように関連するかを明らかにすることです。特に、複数の食事パターンを同一集団で比較する点に意義があります。
■ 方法
本研究は前向きコホート研究であり、看護師健康研究(NHS)、看護師健康研究II(NHSII)、医療専門家追跡研究(HPFS)という3つの大規模研究のデータを統合しています。対象は159,347人で平均年齢44歳、女性が約83%を占めています。評価された食事パターンはDASH食、代替健康食指数(AHEI)、健康的植物ベース食(hPDI)、地球健康食(PHDI)、低インスリン血症食(rEDIH)、低炎症食(rEDIP)の6種類です。認知機能は「物忘れが増えたか」といった主観的評価と、電話による客観的認知テストの両面から評価されました。
■ 結果
結果は明瞭で、健康的な食事パターンの遵守度が高いほど認知機能低下のリスクが低いことが示されました。特にDASH食が最も強い関連を示し、遵守度の高い群では主観的認知機能低下のリスクが約40%低下していました。次いで植物ベース食や低インスリン食なども有意な関連を示しました。また、45〜54歳の中年期においてこの関連が最も顕著であった点は重要です。客観的認知機能もわずかながら有意に良好であり、野菜や魚の摂取が多く、赤身肉や加工肉が少ない食事が共通の特徴でした。
■ 結論
本研究は、健康的な食事が認知症そのものだけでなく、その前段階である主観的な物忘れにも影響する可能性を示しました。特に中年期からの食習慣が将来の認知機能に大きく関わることが明らかとなり、認知症予防は高齢期ではなく40〜50代から始まると考えるべきです。
■ 眼科医としての視点
興味深いのは、今回示された「良い食事」が動脈硬化予防や網膜血管疾患の予防とほぼ一致している点です。つまり、目に良い生活習慣はそのまま脳にも良い影響を与える可能性が高く、全身の血管健康という観点で統一的に理解できます。
■ 出典
JAMA Neurology
Chen H, Cortese M, Flores-Torres MH, et al. Dietary Patterns and Cognitive Function Indicators. Online published February 23, 2026. DOI:10.1001/jamaneurol.2026.0062
■ まとめ
健康的な食事は認知機能低下の予防と関連し、とくにDASH食が強い効果を示しました。中年期からの食習慣が重要であり、眼と脳の健康は共通の生活基盤の上に成り立っているといえます。日々の食事は将来の認知機能への投資であるという意識が、これからますます重要になるでしょう。
注記:
■ DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension)
高血圧予防を目的とした食事で、野菜・果物・低脂肪乳製品を多く含み、塩分や飽和脂肪を控えるのが特徴。
■ 代替健康食指数(AHEI:Alternative Healthy Eating Index)
慢性疾患予防との関連から食事の質を評価する指標で、全粒穀物、ナッツ、不飽和脂肪などを高く評価し、赤肉や加工食品を低く評価する。
■ 健康的植物ベース食(hPDI:healthful Plant-based Diet Index)
植物性食品中心の食事の中でも、精製されていない穀物や野菜・果物など「質の良い植物食品」を重視する指標。
■ 地球健康食(PHDI:Planetary Health Diet Index)
人の健康と地球環境の持続可能性の両立を目指した食事で、植物性食品を主体にしつつ、動物性食品を適量に抑える。
■ 低インスリン血症食(rEDIH:empirical dietary index for hyperinsulinemiaの逆指標)
食後のインスリン分泌を抑える食事パターンで、精製糖質や加工食品を減らし、食物繊維や良質な脂質を多く含む。
■ 低炎症食(rEDIP:empirical dietary inflammatory patternの逆指標)
体内の慢性炎症を抑える食事で、野菜・果物・魚などを多く含み、加工肉や糖質過多の食品を控える。



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