片側顔面痙攣患者における脳内の神経線維の連絡を水分子の運動方向から推測するのが拡散テンソルイメージング法です。この北京の研究では、微小血管減圧術前後の片側顔面けいれん患者と健康対照群で拡散テンソルイメージを調べました。治療に有効な微小血管減圧術の前後で拡散テンソル画像に大きな変化はなく、前後とも正常人とは大きく違っていたという結論です。片側顔面痙攣の最新情報を求める方々のために翻訳して採録しました。なお、この論文には我々が2013年に出したShimizu論文も引用されています。
(Lv, K., Zhang, C., Liu, B., Yang, A., Luan, J., Hu, P., … & Ma, G. (2023). Disruption of the white matter structural network in patients with hemifacial spasm and changes after microvascular decompression.. https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3259470/v1)
ーーー要旨と序論を翻訳採録します。ーーーーー
片側顔面痙攣の患者の白質構造ネットワークの変化と、微小血管減圧後の変化。
クアン Lv 北京大学日中友好臨床医学院ほか。
キーワード: 顔面痙攣, 微小血管減圧, 拡散テンソルイメージング, 構造コネクティビティ、グラフ理論:投稿日:2023年8月18日
DOI: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3259470/v1
要約:片側顔面痙攣(HFS)は、同側の顔面神経によって神経支配される顔面筋の不随意収縮を特徴とする症候群です。現在、微小血管減圧術(MVD)がHFSの治療に有効です。拡散テンソルイメージング(DTI)は、非侵襲的な高度な磁気共鳴で、水の拡散方向に基づいて白質(WM:white matter)を仮想的に再構築する技術です。これにより、グラフ理論を用いて人間の脳を複雑なネットワークとしてモデル化することができます。私たちの研究では、トポロジーを分析および比較するために、HFSの32人の患者と32人の健康な対照者を募集しました。グループ間の全脳白質ネットワークの組織化を行い、変化したトポロジカル特性と臨床スケールスコアとの関係、またその利用可能性についても探りました。HC(健康コントロール)群と比較して、白質ネットワークは、HFS患者の術前および術後の両方グループで中断されていました。変化は主に体性運動ネットワーク、辺縁系ネットワーク、デフォルトネットワークにあります。術前群と術後群の大きな違いはありませんでした。術後患者群における変化したトポロジカル特性と臨床スケールスコアの間には相関関係がありました。HFS(片側顔面けいれん)では、MVD(微小血管圧迫減圧術)の前後に白質構造ネットワークが破壊されたことが示されています。そして、これらの変化は臨床症状と相関していました。これらはHFSのいくつかの潜在的な神経イメージングバイオマーカーの変化を示しています。
顔面痙攣患者における白質構造ネットワークの破綻と微小血管減圧術後の変化. Available from: https://www.researchgate.net/publication/373229617_Disruption_of_the_white_matter_structural_network_in_patients_with_hemifacial_spasm_and_changes_after_microvascular_decompression [accessed Aug 22 2023].
序文:
片側顔面痙攣(HFS)は、同側の顔面神経によって神経支配される顔面筋の不随意収縮を引き起こす症候群です。この状態は、顔の表情、そしてプラティスマ(広頸筋)の筋肉に徐々に影響を与える可能性があります。痛みがないにもかかわらず、HFSの症状は肉体的にも感情的にも衰弱を起し得るものです。(ローレンスら、2018)。HFSは通常片側であり、両側の関与はまれです。小脳血管と顔面神経の神経血管接触が最も可能性の高い原因と考えられています(トレイラーら、2021)。微小血管減圧術(MVD)は現在、HFSの治療、症状の迅速な緩和を提供する(Compagnon et al., 2021;溝渕ら, 2021)とされ、効果的とされます。しかし、MVDの作用機序はまだ明らかではありません。
従来の磁気共鳴画像法(MRI)は、神経学的なELD(?)で広く使用されていますが、侵襲的な検査方法は、HFS患者における脳異常を検出することは困難であす。それに対して高度な非侵襲的MRI技術である拡散テンソルイメージング(DTI:diffusion tensor imaging)は、ヒト生体組織の微細構造を特徴付ける目的で頻繁に使用されます。DTIは、の仮想再構築を可能にします。白質(WM)バンドルは、水分子の拡散の主な方向に基づいており、複雑なネットワークとしてモデル化される人間の脳に使われます(Park et al., 2022;、2023)。グラフ理論は次に、グローバルおよび区域を含む全脳WMネットワークのトポロジーを記述するためにトポロジカル特性(Scharwachterら、2022)として適用されます。近年、HFSが中枢神経系(CNS)(Wang et al., 2022)に関連していることが報告されています。以前の研究では、HFS患者における過度の運動活動および継続的な神経圧迫は、脳の構造(Bao et al., 2015;, 2021)を変化させます。断続的で不随意の顔面筋のけいれんがしば、社会的困惑、不安、ストレスを引き起こし、適応的または不適応的な方法で神経内分泌メカニズム、潜在的にCNS(Baoら, 2015;, 2020)の自律神経系を活性化させる可能性があります。これらの異常は、スペシックなトポロジカルな神経路と構造ネットワークの特徴と関連しています。しかし、私たちの知る限り、HFS患者におけるMVD後のグラフ理論に基づく脳内WMネットワークを調査した研究はほとんどありません。
この研究では、HFSの患者は、術前検査で施行したDTIを用いたHFS患者における術後全脳WMネットワークとHCとの比較それぞれ行い、健常対照(HC)と比較した全脳WMネットワークが調べられました。また、異常脳トポロジカルと区域トポロジカルの相関関係もHFS患者の特性と臨床症状を併せて評価しました。
顔面痙攣患者における白質構造ネットワークの破綻と微小血管減圧術後の変化. Available from: https://www.researchgate.net/publication/373229617_Disruption_of_the_white_matter_structural_network_in_patients_with_hemifacial_spasm_and_changes_after_microvascular_decompression [accessed Aug 22 2023].
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