眼瞼痙攣

[No.2544] 眼瞼けいれんに効果のある感覚トリックの応用に何があるか:CQ53診療ガイドラインから

Q;(CQ53 )眼瞼けいれんに効果のある感覚トリックを応用した行動や装具にどのようなものがありますか

A: 上眼瞼を眼鏡などに取り付けた棒状のクラッチと呼ばれるものや、感覚トリックを利用していると考えられる片眼帯・ゴーグル、化粧用品(美容テープ、二重験グッズ等)などの応用がある。

一方。一定の特的波長に吸収特性を有する遮光レンズ(通常のサングラスとは異なる)については、近年多用されはじめ、臨床研究も増加している。(1C)

 

解説:眼験けいれんにおける日常生活上の問題点は、開験状態を続けることが困難なことで、重な場合は閉したまま(閉瞼固守)になる。また、臨床における観察では、開験努力することで、眩しい、眼痛、異物感、乾燥感などの感覚症状が強化され、これ閉瞼を生み出す悪循環を作る例がしばしばみられる。従って、開験困難を何らかの形で軽減させる対処は意味がある。

感覚トリックとは、特定の感覚的な刺激によりジストニアの症状が軽減する状態であり、眼験けいれん患者の70%に見られると報告や眼験けいれんを含む局所ジストニアの81.8%にみられたとの研究があるが、眼験けいれんの感覚トリックとしては顔の特定の場所を触る、上眠瞼やまつげをひっぱる、片目をつぶる。サングラスをかける、会話や歌う、ガムをかむ、食べる、マスクをするなどがある。

開瞼困難を物理的に軽減させる目的のクラッチ(crutch=松葉杖)は、手術不能な重度の眼験下垂や、眼験けいれんに対して種々の種類のものが用いられている。クラッチ眼鏡も上眼瞼に触れるものであり、物理的開瞼のほかに、感覚トリックも利用しているかもしれない。

片眼帯、パンダナ、ヘアパンド、ゴーグル、インティアン・ターパン(indian turban)や二重瞼用化粧用品の応用は患者自身で編み出した対応としてよく見かける。

また、その上から化粧も可能な超薄型美容テープを用いて良好な成績を得てQOLの上昇にも役立ったとする研究もある.上記はいずれも感覚トリックの応用で、副作用もなく比較的簡便である。ただし、効果は症例によりまちまち、あるいは一時的なのが難点である。

一方。眼験けいれん患者の多くが強い羞明を訴える。羞明に対しては(あるいは羞明を自覚していない症例でも)遮光眼鏡を装用したり、帽子や日傘などで光を追ったりすることで着明の症状の軽減に役立つ。

Herzらは、24例の眼瞼けいれん患者と10例の正常対象者とで、羞明を感する光の強度を確認し、7種の吸収波長の特性を有した色レンズを用いた実験で、本症における光に対する前性は光の強さよりも、波長特性があることを明らかにした。これを受けた形で、30例の患者で450-550nmに吸収特性のある進光レンズFL-41などを用いて調べた研究で、このレンスが光感度の改善だけでなく、瞬目回数、眼験けいれんの重症度も改善したという。

なお、クラッチ眼鏡、遊光眼鏡は同時に処方されることが多い(図1)。キャプチャ.PNG

ポツリヌス治療自体で羞明の軽減がみられる例も少なくない。白内障手術を契機に眼瞼けいれんの存在が顕性化した35例を検討した臨床研究において、その後の治療で25例に改善が得られた。このうち、ポツリヌス治療のみまたは眼鏡との併用が15例。眼鏡のみの対応が6例であった。このように一部の症例でクラッチ眼鏡、遮光眼績の有効性が示唆される。

清澤の追加コメント:上記の回答の推奨度は1で強く推奨するだが、エビデンスの強さは(C)で効果に対する確信は(弱く)限定的である。

確かに知覚トリック(sensory trick)を眼瞼けいれんの治療に加えようという試みはしばしば有用である。今回は特にクラッチ眼鏡について、詳しく話そう。上の公式な解説に私は異議を示すものではなく、「開験困難を何らかの形で軽減させる対処は意味がある。」に同意する。また感覚トリックが70から80%の患者に有効という数字は重視したい。

私の見解では、クラッチ(crutch=英語では松葉杖の意)は、物理的に上瞼を挙上させようというものではない。クラッチ眼鏡は上眼瞼に触れるだけで効果を期待するもので、瞼に触れるだけでも、瞼を抑える形でも効果が出る。脳に眼を開くことを思い出させているのがその働き。むしろ、無理やり持ち上げさせようとして、クラッチのワイヤーを折ってしまう患者がいる。私の考えは、「物理的開瞼のほかに、感覚トリックも利用しているかもしれない」との見解とは異なる。

 「その上から化粧も可能な超薄型美容テープ」の有用性を述べた研究では、美容リハビリに取り組む「かづきれいこ」女史(本名が内田さん)とその会社と協力して、私も南砂町の清澤眼科医院時代に大分深入りした。医学論文の校正職のグッドマンさんにも大分協力をいただいた。その効果はそれなり良好であったが、皆がその利用を続けられたという訳でもなかった。研究計画と評価計画の甘さが論文執筆段階で苦労を増し、結局は英文誌を断念して日本神経眼科学会機関紙の英語ページに漸く採用していただいたというほろ苦い思い出である。(Uchida, Kiyosawa. Neuroophthalmology Japan 37,234-243,2020)

 遮光眼鏡の有効性は論を待たないが、私は現在、日本エッシェンバッハ社がドイツから輸入して販売しているオーバーグラスタイプのものを主に推薦している。サングラスなら持っていますと答える患者さんにもFL41レンズをぜひ勧めたい。全体域の光を減らすサングラスと、まぶしさを感ずる青から緑帯域をカットする遮光眼鏡は別物である。国産の遮光レンズを入れて戴いても良い。遮光眼鏡は人にわかるからと嫌がる患者さんも多いが、「人目を気にしていられる状況ではないでしょう」というのが私の感想です。上のマニュアルでは同時処方が多いとしているが、オーバーグラスにはクラッチ眼鏡は付けられないので、私は①常用眼鏡にクラッチを付けてもらい、②外出時にオーバーグラスの遮光眼鏡を重ねて掛けることをむしろ勧めている。

 ポツリヌス治療自体で羞明の軽減がみられる例も少なくないという上の文の表現は強いが、ボツリヌス毒素が神経筋接合部の伝達を止めるだけではない効果が、将来は証明されて行くのではないだろうか?

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