臨床的質問19:(診断・検査・鑑別・合併症の部分から)
眼瞼けいれんと重症筋無力症の関係を教えてください。
回答:重症筋無力症の中に眼験けいれんと鑑別が困難な症例が存在し、両者が共存することもある、重症肪無力症ではボツリヌス毒素に対する過敏反応があるので診断を誤って注射すると長期間の開瞼をもたらすので要注意である。鑑別のためにエドロホニウム試験を行うとけいれんではジストニアの増悪をもたらし、重症筋無力症が存在してもマスクされることがある、従ってアイステスト、血清学的な診断や神経肪接合部疾患を診断するその他の検査を加える。合併例では重症筋無力症の治療を充分施してから少量のポツリヌス毒素を用いる、重症無力症の治療で薬料誘発性けいれんを生じることがある。
(2C 推奨の強さ2=弱く推奨する。エビデンスの強さC(弱)=効果(成果)に対する確信は限定的である。
解説:重症筋無力症による眼瞼下垂は上眼験挙筋の筋力低下によって生じる。一方、眼瞼けいれんは眼輪筋の過剰な収縮によるものでいずれも結果は瞼裂の狭小化を来す。両病態の類似性から鑑別ないしどちらが優勢なのか判断を要することがある。眼瞼下垂において患者の示した症状が眼瞼けいれんのように見えたにもかかわらず最終診断が重症筋無力症であったという報告があり、両者の鑑別が困難である事がある。
眼筋型重症筋無力症ではしばしば眼瞼けいれんや顔面痙撃を合併するとされる。重症筋無力症を始めとし
の自己免疫疾患も眼験けいれんに合併すると記載されている。両者の密接な関連をKurlan らは眼筋の筋力低下が異常な中枢神経への感覚入力(feedback)をもたらし、持続的な眼験下垂や頻回の瞬目が運動遂行プログラムを損なう。また易疲労性を有する眼筋の動きを瞬目が補正しようとして眼験けいれんが誘発されると考察している。
エドロホニウムはコリン作動薬であり重症筋無力症では症状の改善をもたらすことで診断に用いられる。一方、抗コリン薬はしばしばジストニアの治療に使用される。裏返すとコリン作動薬はジストニアを増悪させる。Matsumoto らは眼瞼けいれんと顔面痙攣を比較してエドロホニウムを点満投与して症状の増悪を検討した。その結果自覚的にも客観的も眼験けいれんにおいて有意に増悪が見られたと報告している。エドロホニウム投与でジストニアが増悪することを診に用いる可能性は痙性斜頸においても報告された。重症無力症と眼瞼けいれんが合併している際にエドロホニウ試験を行うと前者に対しては改善を、後者に対しては増悪の作用を生じるので判断不能な結果が出る。重症筋無力の治療にはエドロホニウムなどのコリンエステラーゼ阻吉薬を用いるため、眼験けいれんを有する患者が重症筋無力症に罹患し、この投薬によって眼験けいれんが顕在化することがあり、実際このタイプの薬剤誘発性眼験けいれんの報告がある。重症筋無力症に対するポツリヌス毒素の使用は極端に症状を増悪させることがあり supersensitive という言葉で表現されるため合併例では重症筋無力症の治療を充分施してから少量のボツリヌス毒素を用いる。
(注)ボトックスの添付文書には禁忌として以下の記述がある:漸新世の神経筋接合部の障害を持つ患者(旧称筋無力症、ランバート・イートン症候群、筋委縮性側側索硬化症等)[本剤は筋弛緩作用を有するため、病態を悪化させる可能性がある。]
清澤の追加コメント:このような例は今まであまり考えたことがなかったが、最近になって「若倉の評価表」に随うと明らかに眼瞼けいれんであるという結果であるのに、片眼に眼瞼下垂が強い症例においてこの筋無力症合併が疑われるという患者さんに遭遇した。その患者さんの診断と治療は、大学病院の神経内科に依頼することになったが、返事を待っている段階である。この患者さんは過去に複数回の下垂手術も受けていたので、当初の下垂の左右差を単に下垂手術の左右差によるものかと考えたが、眼瞼痙攣に対して筋無力症もあり得る合併症であることはボトックス施術に当たっては注意されるべきものである。
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