眼瞼痙攣の病因に関するレビュー(これは神経学のフロンティアという雑誌に2024年1月に掲載された眼瞼痙攣の小総説の要点です)この中に我々の論文も3編取り入れられています。患者の皆さんは此処の文章に囚われずに学問の進歩が緩徐かつ着実に進行していることをご覧ください。
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概要: 眼瞼痙攣は眼輪筋の不随意収縮を特徴とする限局性ジストニアで、重症化すると機能失明や自立生活困難につながります。発症メカニズムは未解明で、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の不均衡が関与すると考えられています。誤診が多く、病因や疫学の理解が治療に役立つと期待されています。
- 感受性要因
眼瞼痙攣は中高年に多く、男性より女性のリスクが高いとされています。都市部に多く、遺伝的因子や生活環境が関与するとされる一方、喫煙やカフェイン摂取がリスク低減に寄与するとの報告もあります。
- 解剖学・生理学的基盤
ジストニアの発症には、大脳基底核、小脳、脳幹が複雑に関与しています。特に大脳基底核の機能障害が眼瞼痙攣の主要因とされ、ドーパミン伝達の異常が抑制制御の低下に影響していると考えられます。また、小脳も運動制御に関与しており、神経ネットワークの崩壊が示唆されています。
- 感覚運動統合と抑制の低下
眼瞼痙攣では、感覚運動統合が異常を示し、「感覚トリック」と呼ばれる症状緩和方法が一部患者に有効です。抑制の低下も確認されており、ジストニア発症の特徴的要素とされています。
- 構造・機能イメージング
新たなMRI技術により、眼瞼痙攣患者の脳構造変化が示されています。特に小脳–視床–皮質ネットワークの異常が視認され、病態理解の進展に貢献しています。
- 神経伝達物質の役割
ドーパミン:眼瞼痙攣の主要因で、代謝の不均衡が運動調節に影響。特定の薬物が症状を誘発する場合もあります。
図 1.線条体のドーパミン作動性システム。黒質pars comoacta(SNc)のニューロンは、線条体経路を通じてドーパミン作動性入力を受け取ります。シナプスレベルでは、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)はテトラヒドロビオプテリン(BH4)を補因子としてチロシンに変換し、チロシンはシナプス前末端でドーパミンを合成します。ドーパミン(DA)およびその他のモノアミンは、小胞性モノアミントランスポーター(VMAT2)によってシナプス前末端の小胞に導入されます。しかし、モノアミンはシナプスギャップに放出され、ドーパミン受容体(D1-5)を含むシナプス後受容体に結合します。シナプスギャップのDAは、モノアミンオキシダーゼとカテコール–オキソ–メチルトランスフェラーゼ(COMT)によってそれぞれ3,4-ジヒドロキシフェニル酢酸(DOPAC)と3-メトキシチルアミン(3-MT)に分解され、シナプス前末端に戻されます。
セロトニン:精神活動に影響し、ジストニア患者で低下が確認されています。
コリン作動性神経系:ドーパミンとアセチルコリンの不均衡が眼瞼痙攣に寄与すると考えられ、抗コリン作用薬が治療効果を示す可能性があります。
GABA:GABA受容体の異常が症状に関連し、アルコールがリスクを低減するとの知見もあります。
- 結論
眼瞼痙攣は学際的理解が必要な疾患であり、神経伝達物質や脳機能の不均衡が症状の主要因と考えられます。ボトックス注射が主な治療法ですが、新たな治療薬の研究が進めば、患者の生活の質向上につながる可能性があります。
原著MINI REVIEW article
Front. Neurol., 11 January 2024
Sec. Movement Disorders
Volume 14 – 2023 | https://doi.org/10.3389/fneur.2023.1336348
The pathogenesis of blepharospasm Lixia Zhu1
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