眼瞼痙攣

[No.3027] 神経伝達物質と眼瞼痙攣

前回紹介した「眼瞼痙攣の病因(本文末尾にリンクあり)」というレビュー論文の中に神経伝達物質についての研究の現状をまとめた部分があります。その部分の要旨を作って清澤の解釈を足しておきます。

神経伝達物質と眼瞼痙攣

眼瞼痙攣の発生メカニズムは未だ完全には解明されていませんが、いくつかの研究により、眼瞼痙攣がドーパミン受容体の過敏性やコリン作動性神経系の過活動、γ-アミノ酪酸(GABA)機能障害など、複数の神経伝達物質系の異常と関連している可能性が示唆されています。以下に、主要な神経伝達物質であるドーパミン、セロトニン、アセチルコリン、GABAの役割を詳述します。眼瞼痙攣は単一の障害というよりも、いくつもの神経伝達物質を介した神経伝達網全体の連絡が悪い状態の総称と考えられます。

  1. ドーパミン(DA

ドーパミンは、筋肉の緊張を維持し、随意運動の調節に重要な役割を果たします。微細なドーパミン神経支配の異常は、眼瞼痙攣の素因になるとされており、ドーパミン減少がみられる年配の成人で特に眼瞼痙攣が発生しやすい背景にあると考えられます。また、ドーパミン作動系がジストニア病態に関与するメカニズムとして、ドーパミン受容体減少による神経伝達経路の異常が示唆されており、特定のドーパミンアゴニスト薬(例:レボドパ、ブロモクリプチン)が、ドーパミン受容体の過敏性を促進し、眼瞼痙攣を引き起こすこともあります。このドーパミンシステムの変動が直接・間接線条体淡蒼球経路におけるバランスを崩し、運動亢進や運動不能を引き起こす可能性があります。(清澤注:我々の論文で引用漏れの物。Horie C, Suzuki Y, Kiyosawa M, Mochizuki M, Wakakura M, Oda K, et al. Decreased dopamine D receptor binding in essential blepharospasmActa Neurol Scand (2009) 119:49–54. doi:10.1111/j.1600-0404.2008.01053.x

PubMed Abstract | CrossRef Full Text | Google Scholar)

  1. セロトニン

セロトニンは、中枢神経系で重要な神経伝達物質であり、主に脳幹縫線核のニューロンで生成され、情動調整や感覚運動皮質に関与しています。セロトニン作動系の異常は、精神障害や神経障害と関連しており、ジストニア患者ではセロトニンの代謝産物である5-ヒドロキシインドール酢酸(5-HIAA)濃度が低下していることが報告されています。また、トリプトファン濃度も健康な対照群と比較して低いことがわかっており、選択的セロトニン作動薬の研究が進めば、ジストニアの治療法開発の道が拓ける可能性があります。

  1. コリン作動性神経系

線条体内でのドーパミンとアセチルコリンの相互作用も眼瞼痙攣の原因に関与しています。アセチルコリンは運動学習に重要な役割を果たし、抗コリン薬(例:ベンゼドリンなど)は眼瞼痙攣の症状を改善する可能性があるとされています。新しい研究により、随意運動や運動障害の臨床症状の制御において、コリン作動性伝達の中心性が再確認されています。

(清澤注;アーテンが時に眼瞼痙攣に有効なのはこの経路に働くからだと考えられます。)

  1. γ-アミノ酪酸(GABA

GABAは抑制性神経伝達物質であり、その機能障害がジストニアの発症に関与しているとされています。クロナゼパムなどのGABA受容体作動薬は、GABAの放出と伝達を促進しますが、長期使用によりGABA受容体のダウンレギュレーションが生じ、眼瞼痙攣を引き起こす可能性があると指摘されています。また、エタノールがGABA作動性神経伝達を増強し、眼瞼痙攣のリスクを低減する可能性があることがわかっています。(清澤注;ベンゾジアゼピン摂取が原因で起きる薬剤性眼瞼痙攣もしられており、また原発性眼瞼痙攣にはリボトリールなどのGABAに共役するベンゾジアゼピン作動薬の効果も良く知られています。)

まとめ

これらの神経伝達物質に関する研究結果は、眼瞼痙攣の病態解明に向けた重要な知見を提供しています。特に、ドーパミンの代謝産物である3-メトキシチラミン(3-MT)は、ジストニアのバイオマーカーとして提案されており、将来的にはさらに詳しい調査が求められます。

 

この論文に引用されている私たちの報告論文

  1. Suzuki Y, Kiyosawa M, Wakakura M, Mochizuki M, Ishiwata K, Oda K, et al. Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with drug-induced blepharospasm. Neuroscience.(2014) 263:240–9. doi: 10.1016/j.neuroscience.2014.01.024

PubMed Abstract | Crossref Full Text | Google Scholar

  1. Suzuki Y, Mizoguchi S, Kiyosawa M, Mochizuki M, Ishiwata K, Wakakura M, et al. Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with essential blepharospasm. J Neurol.(2007) 254:890–6. doi: 10.1007/s00415-006-0468-5

PubMed Abstract | Crossref Full Text | Google Scholar

  1. Suzuki Y, Ishii K, Kiyosawa M. Role of GABAergic system in blepharospasm. J Neuroophthalmol.(2016) 36:349–50. doi: 10.1097/WNO.0000000000000415

Crossref Full Text | Google Scholar

「眼瞼痙攣の病因に関するレビュー」の要約

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。