眼瞼痙攣

[No.3090] 羞明の有無による眼瞼痙攣患者の糖代謝分布の違い(日本神経眼科学会自著演題)

 羞明の有無による眼瞼痙攣患者の糖代謝分布の違い

 

日本神経眼科学会(第62回金沢、11301455-)で私たちの研究「羞明の有無による眼瞼痙攣患者の糖代謝分布の違い」が鈴木幸久医師によって口演されます。当医院からの患者さんでこの研究にご参加いただいた方々も多いので、その抄録を採録します。

鈴木幸久(JCHO三島病院、東京医科歯科大学眼科、東京都健康長寿医療センター神経画像研究チーム)、清澤源弘(自由が丘清澤眼科医院)、石井賢二(東京都健康長寿医療センター)

【目的】原発性眼瞼痙攣患者において、運動系の異常に加えて差明を自覚することが多いが羞明を自覚するメカニズムについては不明である。原発性眼瞼痙攣患者の差明に関連する脳糖代謝変化についてポジトロン断層法(PET) を用いて調べた。

【対象・方法】 PETおよび18F・フルオロデオキシグルコース(FDG)を用いて、差明を伴う原発性眼瞼痙攣19例(男性5例、 女性14例)、羞明を伴わない原発性眼瞼痙攣19例(男性5例、女性14例)の安静時脳糖代謝を測定し、健常例42例(男性 16例、女性 26例)と比較した。

【結果】羞明を伴う原発性眼瞼痙攣群および差明を伴わない原発性眼瞼痙攣群の両群とも健常群と比較して両側視床の糖代謝亢進がみられた。羞明を伴う原発性眼瞼痙攣群では、差明を伴わない原発性眼瞼痙攣群と比較して両側視床 内側部の糖代謝充進がみられた。

【考察】原発性眼瞼痙攣において、以前から視床の活性化が報告されていて、原発性眼瞼痙攣の病態に関した基底核・視床・皮質回路の活化が推測されている。また、視床内側部に存在する後内側腹側核は三叉神経からの入力を受け、疼痛の認知等に関していると推測されている。

【結齢】羞明を伴う原発性眼瞼痙攣群では、視床内側部の糖代謝亢進が観察され、羞明の発症に関連している可能性がある。

【倫理審査委員会等】承認を得ている【同意取得】取得済 【利益相反公表基準 該当】無

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以下は、清澤の注記:単語解説です:

FDGPETによる脳糖代謝測定を患者さん向けにやや詳しく説明します。

FDG-PET([18F]-fluorodeoxyglucose positron emission tomography)は、脳の糖代謝を評価するための核医学イメージング技術です。脳の糖代謝異常は、神経疾患や認知症の診断、特にアルツハイマー病やてんかん病変の特定に役立ちます。

FDG-PETの原理

  1. [18F]フルオロデオキシグルコース (FDG)
    FDG
    はグルコース(ブドウ糖)に類似した分子で、放射性同位体フッ素18[18F])で標識されています。FDGは細胞によって取り込まれますが、分解されずに細胞内に留まる性質を持っています。
  2. グルコース代謝の可視化
    脳の神経細胞はエネルギー源としてグルコースを主に利用します。FDGはグルコースと同様に神経細胞に取り込まれるため、FDGの分布を可視化することで、脳の局所的な糖代謝の状態を測定できます。
  3. 画像化
    FDG
    が細胞に取り込まれた後、[18F]が放出する陽電子が電子と衝突して消滅放射(511 keVのガンマ線)を生成します。この放射線をPETスキャナーで検出し、脳内のFDG分布を3次元画像として再構築します。

測定手順

  1. FDGの注射
    被験者にFDGを静脈注射します。その後、脳内にFDGが分布するまで約3060分間安静にします。
  2. PETスキャン
    FDG
    が脳に取り込まれた後、PETスキャナーで撮影します。撮影は通常2030分程度です。
  3. 画像解析
    得られた画像を解析し、脳の各領域の糖代謝を定量的または半定量的に評価します。

臨床的意義

  1. アルツハイマー病の診断
    ・側頭葉、頭頂葉、後部帯状回の糖代謝低下が特徴です。
    ・早期診断や他の認知症との鑑別に有用です。
  2. てんかん病巣の特定
    ・てんかんの焦点となる部位の糖代謝低下を検出できます。
    ・外科手術の計画に役立ちます。
  3. 脳腫瘍の評価
    ・腫瘍の悪性度や活動性を評価するために使用されます。
    ・再発や治療効果のモニタリングにも役立ちます。
  4. その他の疾患
    ・パーキンソン病やレビー小体型認知症などの神経変性疾患の診断補助。
    ・外傷後脳障害や精神疾患の研究にも使用されています。

メリットとデメリット

メリット

  • 高い感度で局所的な脳の糖代謝異常を検出可能。
  • 非侵襲的であるため、繰り返しの検査が可能。

デメリット

  • 放射性物質を使用するため、被ばくが伴う(安全性は確立されていますが、慎重な適応が必要)。
  • 検査費用が高額である。
  • 脳内の糖代謝の変化が病態と直接関連しない場合があるため、慎重な解釈が必要。

FDG-PETは、眼科領域でも視神経や後頭葉の異常評価の一部に応用される場合があり、他の脳神経疾患との鑑別や併存疾患の把握に有用です。

 

2:痛覚や羞明に関連する脳の視床の働きを患者さん向けに簡単に説明します。

視床は脳の中心部に位置する構造で、感覚情報を処理し、大脳皮質に中継する重要な役割を担っています。痛覚や羞明においても視床は重要な関与をしています。

視床の働きと痛覚

  1. 感覚情報の中継
    視床は脊髄や脳幹からの痛覚情報を受け取り、大脳皮質の体性感覚野(一次体性感覚皮質)に伝達します。この過程で、痛覚の強さや位置が認識されます。
  2. 痛覚の調節
    視床には痛覚を増強したり抑制したりする働きもあり、痛みの感情的側面(不快感や苦痛の感覚)を形成する役割も果たします。特に内側視床核は痛みの情動や心理的影響に深く関与しています。

視床の働きと羞明

羞明は、過剰な光刺激に対して不快感や痛みを伴う反応であり、視床は光刺激情報の中継と処理にも関与しています。

  1. 視覚信号の中継
    網膜からの視覚信号は、視床の外側膝状体核(LGN)を通って大脳皮質の視覚野に送られます。この過程で視床は光の強さや刺激の特性を調整します。
  2. 羞明の感覚的側面
    過剰な光刺激が感覚神経を過敏に刺激する場合、視床がその情報を過剰に中継・処理し、不快感や羞明感を生じさせます。
  3. 光刺激と痛覚の統合
    視床は視覚と痛覚の情報を統合し、羞明のような感覚的な不快感に結びつける役割も果たしています。この統合は視床と大脳辺縁系の相互作用を通じて行われます。

臨床的な関連

  • 羞明と視床損傷
    視床の損傷や病変(脳卒中、腫瘍など)があると、羞明や痛覚過敏が増強されることがあります。
  • 眼疾患における視床の役割
    緑内障や視神経疾患の一部では、視床を含む視覚伝導路の異常が羞明の増強に関与する場合があります。

視床は、痛覚や羞明といった感覚の調節において、感覚情報を大脳皮質に送る中継点としてだけでなく、それらの情報を修飾して感情的・心理的な体験に変換する重要な役割を果たしています。

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