TMS(経頭蓋磁気刺激)と眼瞼痙攣治療
①質問:TMSは眼瞼痙攣(Blepharospasm)の治療に有効ですか?
②清澤の答え:
、Transcranial Magnetic Stimulation)は、頭蓋の外にコイルを設置し、電流を流して脳内の磁場を変化させ、神経活動を調整する方法です。この技術はうつ病治療に広く用いられていますが、眼瞼痙攣を含むジストニアの治療にも応用される可能性があると考えられています。ただし、眼瞼痙攣に対するTMSの研究は主に2010年頃に行われ、その後大きな進展は見られていません。ボトックス(ボツリヌス毒素注射)が依然として第一選択の治療法です。
③詳しい答え:
TMSと眼瞼痙攣の関係
眼瞼痙攣は、大脳基底核の異常な神経回路の活動によって引き起こされると考えられています。TMSは神経活動を調整することで症状の軽減に寄与する可能性があり、研究対象とされてきました。
研究の現状
いくつかの研究では、TMSが眼瞼痙攣に一定の効果を持つ可能性が示唆されています。
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一次運動野(M1)や補足運動野(SMA)への反復経頭蓋磁気刺激(rTMS) により、眼瞼痙攣の症状が一時的に軽減する可能性がある。
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低頻度rTMS(1Hz) を用いた場合、眼瞼痙攣に関連する過剰な神経活動を抑える効果があるとされる。
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高頻度rTMS(10Hz) を前頭前野(DLPFC)や運動皮質に適用すると、運動制御に関与する神経回路の調節が可能かもしれない。
しかし、TMSが眼瞼痙攣に対する標準的な治療法として確立されたわけではなく、ボツリヌス毒素(ボトックス)注射が第一選択の治療法であり続けています。
TMSの実用性と限界
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補助的な治療法としての位置づけ:ボトックスが効果不十分な患者や、副作用で使用できない患者に対して試験的に用いられることがある。
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長期的な有効性に関する大規模研究が不足しており、エビデンスの蓄積が求められる。
今後の展望
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TMSのプロトコル(刺激部位、頻度、回数など)の最適化が進めば、眼瞼痙攣治療の選択肢として確立される可能性がある。
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TMSとボトックスの併用療法の効果についても研究が進められている。
結論
TMSは眼瞼痙攣の治療法として一定の可能性があるものの、現時点では標準治療とはなっていません。ボトックスが第一選択であり、TMSは将来的な治療選択肢の一つとして研究が進められている段階です。TMSを試みる場合は、神経生理学的治療を行う専門医と相談するのがよいでしょう。
④代表的文献
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Jessica Frey et al. (2023) Applications of Transcranial Magnetic Stimulation for Understanding and Treating Dystonia. DOI: 10.1007/978-3-031-26220-3_7
要約: 経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いた研究は、ジストニアの病態生理学の高度な理解につながっている。TMSデータをまとめたナラティブレビュー(記述的な総説)では、運動皮質の興奮性増加、過度の感覚運動可塑性、および異常な感覚運動統合がジストニアの主要な病態生理学的基盤であることを示唆している。
反復TMSパルス(rTMS)は、局所的およびネットワーク全体の影響を誘発し、治療の可能性を持つ。しかし、サンプルの少なさ、研究デザインの不一致、標的部位のばらつきなどの課題があり、さらなる研究が必要である。
キーワード: 眼瞼痙攣, 頸部ジストニア, 限局性手ジストニア, 経頭蓋磁気刺激, rTMS
Review Adv Neurobiol. 2023:31:119-139.
現時点ではTMSは眼瞼痙攣の標準治療として確立されていませんが、研究が進めば将来的に有望な治療選択肢の一つとなる可能性があります。
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