抗うつ薬をやめたときに起こる「中止症状」 ― 最新研究が明らかにした実態
抗うつ薬は、うつ病や不安障害などに広く使われ、世界中の何百万人もの人を支えています。しかし、治療が安定して薬をやめようとしたとき、一部の人に「中止症状(離脱症候群)」が起こることがあります。これは薬の副作用とは異なり、服用をやめた後に脳や神経のバランスが一時的に乱れることで生じる症状です。
清澤眼科院長のコメント
この研究は精神科領域の話ですが、抗うつ薬は眼科でもしばしば処方歴として関わる薬です。ドライアイ、慢性疼痛、眼瞼けいれんなどの患者さんが、精神科薬を服用していることは少なくありません。眼瞼痙攣関連の論文として取り上げてみました。
眼科医としても、「最近抗うつ薬をやめた後から目の調子が変だ」と訴える患者さんがいた場合、こうした中止症状の存在を知っていることが重要だと感じます。身体や神経はひとつながりであり、薬をやめる際の慎重さと医師間の連携が欠かせません。
■ 研究の背景 ― どれくらい起こるのか、はっきりしていなかった
1950年代に抗うつ薬が登場して以来、中止時の不快な症状は報告されていましたが、実際にどのくらいの頻度で起きるのか、どの症状が特に特徴的なのか、科学的に整理されたデータは少なかったのです。
そこで、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのサミール・ジャウハール博士らの研究チームが、50件のランダム化比較試験(RCT)をまとめた系統的レビューとメタ解析を行いました。対象は計1万7828人にのぼり、抗うつ薬を中止した人の症状を精密に検討しました。
■ 明らかになった中止症状の特徴
研究で注目されたのは、**「神経症状」「精神症状」「消化器症状」**の3群です。
特に特徴的だったのは次のようなものです。
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神経症状:頭の中に「電気が走るような感覚(いわゆる“ブレイン・ザップ”)」「めまい」など
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精神症状:不安感、イライラ、不眠など
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消化器症状:吐き気、胃のむかつきなど
このうち、電気ショックのような感覚やめまいは薬理学的な影響が強く、プラセボ群ではほとんど見られなかったことが重要な発見でした。つまり、これは「気のせい」ではなく、実際に脳内のセロトニン系が再調整される際に生じる現象と考えられます。
■ 頻度と持続期間 ― 一過性であるが注意が必要
抗うつ薬をやめた人のうち、非特異的な不快症状を訴えたのは10%未満。一方で、**めまいや電気的なショック感覚などの典型的な神経症状は約30%**に見られました。
これらの症状は多くの場合、中止後1~4週間以内に現れ、自然に軽快します。研究で追跡された期間は最長でも6週間程度でした。
ただし、症状が強い場合や長引く場合は、うつ病の「再発」との区別が難しくなります。再発では、電気的なショック感やめまいよりも、気分の落ち込み・意欲低下といった本来のうつ症状が前面に出ることが多いといいます。
■ 薬による差 ― 半減期の短い薬は注意
特に**パロキセチン(商品名:パキシル)など、体内から薬が早く抜けるタイプ(半減期が短い薬)**では中止症状が出やすい傾向があることも示されました。一方で、作用が長く穏やかな薬ではリスクは低めです。とはいえ、どの薬でも個人差が大きく、「誰に起こるかを予測するのは難しい」と研究者は述べています。
■ 患者と医師へのメッセージ
抗うつ薬の中止症状は決して珍しいことではなく、また恐れる必要もない一過性の現象です。重要なのは、患者がこうした症状を医師に率直に伝え、急に薬をやめず、医師と相談しながら段階的に減量することです。
また医師側も、「ザップ」「めまい」「不安」などの症状が出た際、それを“再発”と決めつけず、中止に伴う神経的な反応かもしれないと考慮することが求められます。
出典:
Jauhar S, et al. Incidence and Nature of Antidepressant Discontinuation Symptoms: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Psychiatry, 2025.
清澤の追記;① 抗うつ薬と眼瞼痙攣。;抗うつ薬が 典型的に 眼瞼痙攣を起こすという明白な因果関係は確立されていない。ただし、薬剤性の中枢‐末梢神経調節障害として、まぶたの異常運動(特に軽度のミオキミア様の症状)が出る可能性は、稀ではあるが理論的には排除できない。臨床的には、症状の発現時期、用量、他薬剤併用の有無、神経症状の有無などを慎重に検討するべきです。② ベンゾジアゼピンは抗うつ薬に含まれるか?;いいえ。ベンゾジアゼピン(benzodiazepine, 略称 BZD) は、抗うつ薬とは別の薬理学的クラスに属します。抗うつ薬(antidepressants):主にセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどのモノアミン系神経伝達物質の再取り込み抑制や受容体調節を通じて、うつ病や不安障害などの気分・感情調節を改善することを目的とする薬剤群。代表的なものに SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)などがあります。ベンゾジアゼピン:GABA_A 受容体に結合して GABA の抑制性作用を増強することで中枢神経系の興奮を抑制する鎮静・抗不安作用、筋弛緩作用、催眠作用、抗けいれん作用などを持つ薬剤です。 ベター・ヘルス・チャンネル+4NCBI+4mind.org.uk+4 つまり、作用機序も目的適応も異なります。しかし、臨床的には併用される場合があります。
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