新しいタイプのボトックス治療薬 ― インコボツリヌストキシンAの有効性と安全性が確認されました
まぶたが自分の意思に反して閉じてしまう「眼瞼けいれん」は、視界がふさがるだけでなく、まぶしさや疲れ目、読書や運転の困難など、生活の質を大きく下げる病気です。現在、この症状の改善には「ボツリヌス治療(ボトックス注射)」が標準的に行われています。
今回、日本で新しく「インコボツリヌストキシンA」という薬剤の効果と安全性を調べる臨床試験(第Ⅲ相試験)が行われ、その結果が報告されました。研究は、国際医療福祉大学熱海病院眼科を中心に、全国14の医療機関で行われました。清澤源弘も含め、眼瞼けいれん治療の専門家が多数参加しています。
試験の概要
対象となったのは、18歳から80歳までの日本人の眼瞼けいれん患者さん29名。平均年齢は64.6歳で、そのうち約8割はすでに従来のボトックス治療を受けた経験がありました。
参加者は、眼のまわりの緊張している筋肉にインコボツリヌストキシンAを注射されました。治療歴のない人は50単位から開始し、治療歴のある人は症状に応じて50〜100単位の範囲で投与しました。注射は6週間以上の間隔をあけて繰り返し行われ、効果の変化が追跡されました。
効果の評価
症状の重さを測る「Jankovic重症度スコア(JRS)」を用いて評価したところ、6週目の時点で平均スコアが2段階以上改善しました。これは、まぶたのけいれんが大幅に軽くなったことを意味します。
また、重症度だけでなく、けいれんの頻度や総合スコアも継続して改善を示し、多くの患者さんで効果が実感できる結果となりました。
安全性と副作用
治療中に起きた副作用のほとんどは軽度から中等度で、一時的なものでした。もっとも多かったのは「まぶたが少し下がる(眼瞼下垂)」というものでしたが、これも時間とともに改善しています。重い副作用は報告されていません。
この結果から、インコボツリヌストキシンAは従来のボツリヌス治療薬と同等の安全性を持ち、確かな効果を示すことが確認されました。
今後への期待
インコボツリヌストキシンAは、すでにヨーロッパなどでは「Xeomin(ゼオミン)」という名前で広く使用されています。日本では今回の試験を経て、正式な承認に向けた準備が進められています。
これにより、眼瞼けいれん患者さんにとって新しい治療の選択肢が広がり、薬剤選択の幅が生まれることが期待されます。
院長コメント
眼瞼けいれんの治療は、患者さんの症状や体質によって効果の持続期間や反応が異なります。複数の治療薬が選べる時代になれば、よりきめ細かい治療が可能になります。
今回の研究は日本人患者を対象に行われた点でも意義が大きく、今後の治療指針に大きく貢献するものです。
出典:
後関利明ほか「日本人眼瞼痙攣患者におけるインコボツリヌストキシンAの有効性及び安全性:第Ⅲ相非盲検非対照単群試験」第63回日本神経眼科学会総会2025年抄録
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