眼瞼痙攣

[No.4142] 眼瞼痙攣で治療中の患者さんで首のうなづくような動きと片腕の強い振戦を示す人:

Q: 眼瞼痙攣で治療中の患者さんで首のうなづくような動きと片腕の強い振戦を示す人がいた場合、その眼瞼痙攣との関連を説明する。対応として何が考えられるか?現在、ボトックス注射のほかに最小量のリボトリールを使っているが、振戦が強いので神経内科に相談することを考えている。なお、「振戦」は、「自分の意思に関係なく体の一部が小刻みに震える状態」や「筋肉の不随意な反復運動」と言い換えられます。「手足や首が小刻みに震える不随意運動」と説明するとわかりやすい。
A: 眼瞼けいれんと首のうなづき、片腕の振るえが同時に見られる場合

眼瞼けいれん(がんけんけいれん)は、まぶたの周囲の筋肉が自分の意思とは関係なくけいれんする病気です。主な原因は、脳の深い部分(大脳基底核)での運動のコントロールに関わる神経の働きの異常と考えられています。けいれんは眼のまわりだけでなく、同じ仕組みで体の他の筋肉にも広がることがあります。

まぶたのけいれんが進むと、次第に口のまわり、頬、首の筋肉が動いてしまうことがあり、この状態を「顔面けいれん」や「痙性斜頸(けいせいしゃけい)」と呼びます。首がうなづくように動く場合は、首の筋肉(胸鎖乳突筋や僧帽筋など)にけいれんやジストニア(異常な筋収縮)が起こっている可能性があります。これらは眼瞼けいれんと同じく「局所性ジストニア」というグループの病気の一種で、原因の神経回路が共通しているために、複数の部位に出ることがあるのです。

一方で、「片腕の強い振るえ(振戦)」が同時に見られる場合には、少し異なる病気が重なっている可能性も考えられます。振戦は、パーキンソン病や本態性振戦(ほんたいせいしんせん)と呼ばれる病気でよくみられる症状で、体の一部が細かく規則的に震える状態です。パーキンソン病でも大脳基底核の機能に異常が起こるため、眼瞼けいれんと同じ神経系の回路が関係していることがあります。そのため、両方の症状が併存することも珍しくありません。

治療として、眼瞼けいれんにはボツリヌス毒素(ボトックス)注射が最も効果的です。まぶたの異常な筋肉の収縮を抑え、まぶたの開け閉めを楽にします。首の動きにもジストニアが関係している場合には、同じくボトックスを首の筋肉に注射して治療することも可能です。

しかし、振戦が強い場合は、単に筋肉のけいれんではなく、神経全体の調整異常が関与している可能性があります。そのため、神経内科での評価が重要です。神経内科では、頭部MRIで脳の構造を確認したり、パーキンソン病や他の運動異常症の有無を調べる検査(筋電図やDATスキャンなど)を行うことがあります。

すでに使っておられる「リボトリール(クロナゼパム)」は、筋肉の異常な興奮を抑える働きを持つ抗けいれん薬で、眼瞼けいれんや振戦に対して補助的に用いられる薬です。ただし、効き目には個人差があり、長期使用では眠気やふらつきが出やすいため、医師の指導のもと慎重に調整する必要があります。

このように、眼瞼けいれんと首の動き、そして片腕の振戦が同時に起こる場合、原因がひとつではなく、複数の神経機能の異常が重なっていることがあります。眼科だけでなく、神経内科と連携して診断と治療を行うことが、今後の症状の安定につながります。

まとめると――

  1. 首のうなづきや振戦は、眼瞼けいれんと同じ神経回路(大脳基底核)由来の異常である可能性がある。

  2. ただしパーキンソン病や本態性振戦など、別の神経疾患が併発している可能性もある。

  3. ボトックス注射は局所症状には有効だが、全身的な調整には神経内科的治療が必要。

  4. したがって、神経内科での精密検査と併診が望ましい。

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患者さんへの説明としては、「まぶたのけいれんと同じ神経の働きが首や手にも影響していることがあり、原因をより詳しく確かめるために神経内科で調べてもらいましょう」と伝えるのが分かりやすいでしょう。

注記:振戦とは

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