眼瞼痙攣は今後どうなるのか
―「他の部位への広がり(拡大)」を4年間追った研究から―
眼瞼痙攣(Blepharospasm:BSP)の患者さんから「この先もっと悪くなりますか」「目だけの病気で終わりますか」「口や首にも広がりますか」と質問されることは多いです。眼瞼痙攣は、局所性ジストニアの中でも、ほかの部位へ症状が“広がる(dystonic spread)”リスクが高いとされますが、早期の段階で「どの患者さんが広がりやすいか」を客観的に見通す指標は十分ではありません。今回の研究は、その“広がりやすさ”を予測するための手がかりを、臨床評価と電気生理検査から探し、予測モデルとしてまとめたものです。 PubMed+1
背景
眼瞼痙攣は、まばたきの増加や目の開けにくさが主症状ですが、経過の中で口周り・あご(口顎部)や首などにジストニアが加わるケースがあります。問題は、診察室で「将来広がるかどうか」を患者さんに尋ねられても、確かな物差しが少ない点でした。 PubMed
目的
眼瞼痙攣が4年以内に他部位へ拡大するリスク因子を、①臨床情報(とくに不安の程度)と、②電気生理検査(神経の反応をみる検査)から同定し、さらにそれらを組み合わせて**拡大を予測するモデル(ノモグラム)**を作ることが目的です。 PubMed
方法
眼瞼痙攣患者を登録し、4年間の前向き観察研究として追跡しました。追跡中に、眼以外の部位へジストニアが広がったか(拡大の有無)を記録します。同時に、瞬目反射(blink reflex)、咬筋抑制反射(masseter inhibitory reflex)、そして三叉神経系の機能をみる**三叉神経体性感覚誘発電位(trigeminal SEP)**などの電気生理検査を行いました。統計解析は、拡大に関連する因子を見つけるためにCox回帰モデル(単変量・多変量)を用い、抽出された因子を組み合わせて予測モデルを構築し、ROC曲線下面積(AUC)で性能を評価しました。 PubMed+1
結果
4年間の追跡を完了したのは136人(平均年齢56.34歳)でした。そのうち62人(45.6%)で、眼以外の部位への拡大が認められました。多変量解析の結果、拡大と独立して関連する因子として、主に次の3つが挙げられました。
1つ目は不安の程度(ハミルトン不安尺度)が高いこと。2つ目は、三叉神経SEP(下顎枝)のP1-N2ピーク間隔が延長していること。3つ目は同じく三叉神経SEP(下顎枝)のP1-N2振幅が高いことです。これらは、4年以内の拡大リスクと統計学的に有意に関連していました。 PubMed
さらに、これらの因子を組み合わせた予測モデルは識別能が高く、AUCは登録後1年0.797、2年0.790、3年0.847、4年0.820と報告されています。つまり、一定の精度で「今後どの程度拡大しやすいか」を見積もれる可能性が示されました。 PubMed
結論
本研究は、眼瞼痙攣の「他部位への拡大」を見通すために、不安の評価と三叉神経SEPの指標を用いた予測モデルを提示しました。これにより、早期から拡大リスクを推定し、患者さんへの説明や経過観察の計画(どの頻度で、何を注意してみるか)に役立つ可能性があります。 PubMed+1
出典
Ziwen Xing, Yue Hu, et al. A Prediction Rule for the Dystonic Spread of Blepharospasm: A 4-Year Prospective Cohort Study. Annals of Neurology. 2024;96(4):747–757. doi: 10.1002/ana.27025. PubMed+1
清澤のコメント
「45.6%が4年で拡大」という数字は患者さんにとって重く聞こえますが、これは“集団としての傾向”です。大切なのは、不安のケアを含めた全身的な視点と、必要に応じて神経内科と連携しながら、個々のリスクに合わせてフォローを組み立てることだと思います。私はセスデイーで不安を評価して神経心理学的対応まで取り組んでいますが、電気生理学的な評価は行えておりません。



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