白内障

[No.3173] 眼科でも最近、神経障害性疼痛という言葉をしばしば聞きますが。

清澤のコメント:眼瞼痙攣や白内障を含む眼科手術の術後などで眼表面にはっきりとした障害が見られないが頑固な疼痛を訴えるという患者さんを見ることがあります。そのような状態に対して神経因性疼痛という言葉が用いられるようになっています。通常の疾病や疼痛を考えた治療に抵抗する場合には下記のような薬剤を試してみることができます。重要なことは、特定の薬剤で症状が消えるのを期待するというよりも、より長期に亘って患者さんの訴えを聞き続ける必要があり、患者さんも薬剤服用を含む治療を長期に亘って続けるける中で、その疼痛と付き合ってゆく覚悟を持っていただくことも必要であろうと考えています。

神経因性角膜疼痛(neuropathic corneal pain)についての説明

神経因性角膜疼痛(neuropathic corneal pain)は、角膜の知覚神経の異常な活動により生じる痛みです。この痛みは一般的な角膜疾患とは異なり、実際の組織損傷が軽微または存在しない場合でも強い痛みを伴うことが特徴です。患者さんは「焼けるような痛み」「刺すような痛み」「異物感」などを訴え、通常の治療に対して効果が乏しい場合があります。


特徴

  • 痛みの性質: 燃えるような痛み、鋭い刺すような痛み、または持続的な鈍痛。
  • 症状の持続性: 痛みが持続的で、明確な誘因がない場合でも悪化することがあります。
  • 他覚的所見の不一致: 角膜に目立った異常が認められない場合が多いが、神経の異常が疼痛を引き起こしていると考えられます。

原因

  1. 外傷や手術:
    • 角膜移植や白内障手術後に神経損傷が生じることがあります。
  2. 感染症:
    • ヘルペスウイルス感染後の神経損傷が典型例です。
  3. 慢性疾患:
    • ドライアイ症候群(特に重症例)やシェーグレン症候群。
  4. 神経疾患:
    • 三叉神経痛や脊髄の障害。
  5. 薬剤性:
    • 一部の点眼薬やコンタクトレンズ装用が誘因になる場合があります。

診断

  1. 症状の詳細な問診:
    • 痛みの性質、発症時期、持続時間、誘因。
  2. 他覚的検査:
    • 角膜の染色検査やOCTで異常を確認しますが、神経因性疼痛では異常が乏しい場合が多い。
  3. 神経伝導の評価:
    • 共焦点顕微鏡で角膜知覚神経の変化(例えば、神経の密度低下や神経の異常な形態)を評価。
  4. 感覚テスト:
    • Cochet-Bonnetエステシオメーターで角膜感覚を測定。
  5. 治療反応性の評価:
    • 一般的な角膜疾患の治療が効果を示さない場合は、神経因性角膜疼痛の可能性が考えられます。

治療

1. 局所薬剤

  • 人工涙液: 角膜表面を保護し、疼痛を軽減します。
    • 使用方法: 1日4〜6回点眼。
    • 製品例: ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレイン)。
  • 局所麻酔薬: 短期間の使用に限る。
    • 製品例: オキシブプロカイン点眼液(アネベート)、リドカインを含む点眼液(ラクリミン®)。
    • 注意: 長期使用は角膜損傷を引き起こす可能性があるため推奨されません
  • サイクロスポリン:
    • 使用方法: サンデミュン® 0.05%、1日2回。
    • 効果: 免疫調節作用により炎症を軽減。
  • リフィタリグ®(眼用トラフルルシッド):
    • 使用方法: 1日2回点眼。
    • 効果: 炎症抑制を目的。

2. 経口薬剤 (弱そうなものを少量から順に試す。)

  • ガバペンチン(神経障害性疼痛治療薬):
    • 用量: 初期量100〜300mg/日、徐々に増量し、最大1800mg/日。
    • 効果: 神経の過敏性を抑制。
  • プレガバリン:
    • 用量: 初期量75mg/日、最大150mg/日。
    • 注意: 副作用として眠気やめまいが生じることがあります。
  • 三環系抗うつ薬(アミトリプチリン):
    • 用量: 10〜50mg/日(就寝前に投与)。
    • 効果: 神経障害性疼痛を軽減。
  • SNRI(デュロキセチン):
    • 用量: 30〜60mg/日。
    • 効果: 痛みの認知閾値を上昇させる。
    • ◎ 追記:ノイロトロピンも考えられます。

3. 補助療法

  • 低用量ステロイド点眼:
    • : フルオロメトロン(フルメトロン®)。
    • 用量: 1日2〜4回。
  • 自家血清点眼:
    • 効果: 角膜再生促進。

4. 非薬物療法

  • 心理療法:
    • 痛みの認知を緩和するため、認知行動療法が有用です。(これは清澤も用いています、)
  • 神経ブロック:
    • 三叉神経ブロックや脊髄硬膜外注射。(眼科で手に負えぬ場合にはペインクリニックに紹介も考える)

注意事項

  • 診断後、神経因性角膜疼痛の治療は長期化することが多いため、患者と十分な話し合いを行い、治療の継続性を保つことが重要です。
  • 治療は症状の重症度、患者のライフスタイル、希望を考慮して選択してください。
  • 下で論じられた痛覚変調性疼痛との異動が今後も論じられると思われます。

引用文献

  1. Galor A, Levitt RC, Felix ER, et al. Neuropathic ocular pain: an important yet underevaluated feature of dry eye. Eye. 2015.
  2. Rosenthal P, Borsook D. The corneal pain system. Br J Ophthalmol. 2016.

    痛覚変調性疼痛とは

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