白内障

[No.3491] シンポジウム19「眼感染症の病態に迫る!」要旨と要点、

シンポジウム19「眼感染症の病態に迫る!」 清澤のコメント: 角膜感染について、抄録を見ますと「感染性角膜炎の病原因子」、「細菌毒素とアラーミンの相互作用」、「細菌性角膜炎におけるリンパ管新生」、「メタゲノム解析」などの耳新しい言葉が解説されていました。研究の最前線に触れる貴重なセッションです。 

日程: 2025419日(土)9:00–10:20
会場: 東京国際フォーラム 第2会場(B7-1
オーガナイザー: 戸所 大輔(群馬大学)、福田 憲(高知大学)

 

S19-1

演題: グラム陰性桿菌による感染性角膜炎の病原因子
演者: 井上 英紀(愛媛大学)

概要: コンタクトレンズ使用者に多い緑膿菌やMoraxella菌による感染性角膜炎について、国内の疫学データを基に病原因子を解説します。特に緑膿菌は重症化リスクが高く、糖尿病はMoraxella感染の危険因子である。こうした背景と病原菌の毒性の関係性に注目し、感染制御と予防への示唆を与える。

清澤のキーワード解説: 緑膿菌はT3SSType III分泌系)を用いてExoS, ExoUなどの毒素を角膜細胞へ注入し、急性壊死性炎症を引き起こします。さらにバイオフィルム形成によって抗菌薬が効きにくくなり、難治性の経過を取ります。一方、モラクセラはLPSやプロテアーゼにより慢性的な炎症を引き起こします。特に高齢者や糖尿病患者での発症率が高く、免疫低下との関連も見逃せません。緑膿菌=若年のCL装用、モラクセラ=免疫弱者という図式でリスク把握をしましょう。

S19-2

演題: 黄色ブドウ球菌角膜炎の発症における細菌毒素とアラーミンの相互作用
演者: 中島 勇魚(高知大学)

概要: MRSAによる角膜炎の一因として、細菌毒素PSMαが角膜細胞から炎症因子IL-36を誘導することで炎症を悪化させることを明らかに。マウス実験では、PSMαを持つ菌株が上皮治癒を遅らせ、強い炎症を引き起こした。IL-36経路の抑制が治療の鍵となる可能性を示す。

清澤のキーワード解説: PSMαはMRSAが分泌する細胞毒で、角膜細胞を直接傷害するとともに、アラーミン(IL-36αなど)を放出させて免疫系に強力な炎症シグナルを送ります。アラーミンはDAMPsとして作用し、自然免疫を過剰に活性化。炎症が持続し、組織破壊や創傷治癒の遅延を引き起こします。IL-36経路をブロックすることで炎症軽減効果が得られることから、抗菌薬+分子標的治療という新しい治療方針への展望が開けます。

S19-3

演題: 細菌性角膜炎におけるリンパ管新生の機序と役割
演者: 成松 明知(東京医科大学)

概要: 通常無血管で免疫特権のある角膜において、細菌性角膜炎によりリンパ管新生が生じる。この新生は炎症終息や浮腫軽減に関与する可能性がある。新たに開発したリンパ管のみ誘導するマウスモデルを用いて、その役割を明確化。リンパ管は治癒を促す重要因子であると示唆される。

清澤のキーワード解説: 角膜は透明性を保つため血管・リンパ管を持たないが、炎症によりリンパ管新生が誘導されます。これが過剰になると免疫反応が暴走しますが、適度なリンパ管新生は老廃物や浮腫成分の排出を助け、炎症終息と組織修復に有利に働きます。本研究では血管を誘導せずリンパ管だけを誘導するモデルマウスを作成し、リンパ管の特異的役割を解明。慢性炎症や角膜浮腫に対する新たな治療戦略の基盤となる可能性があります。

S19-4

演題: 原因不明の眼表面疾患におけるメタゲノム解析による病原体探索の試み
演者: 堀田 芙美香(近畿大学)

概要: 従来の検査では検出困難なウイルス感染症を、ナノポアシーケンサー「MinION」によるメタゲノム解析で探る試み。涙液や角膜上皮から未知のウイルスを検出し、その存在量から病因との関連を解析。原因不明の眼表面疾患への新たな診断法として注目される。

清澤のキーワード解説: MinIONはOxford Nanopore社製のポータブルDNAシーケンサーで、ウイルスや細菌を網羅的に検出できるメタゲノム解析が可能です。従来のPCR検査が想定された病原体しか拾えないのに対し、MinIONでは未知のウイルスや予想外の微生物も検出できるのが特長。リアルタイム解析と長鎖リードによる高精度シーケンスにより、特定困難な角膜炎や眼表面疾患の診断に革命をもたらす可能性を秘めています。

清澤の総括:
このシンポジウムでは、感染性角膜炎の病原性や免疫反応、診断技術に関する最新の研究成果が披露されます。抄録を見ると細菌毒素や免疫メディエーター、リンパ管新生、さらにはナノポア技術など、現代の眼科医が知っておくべきトピックばかりです。今後の診療や研究にぜひ活かしたい知見です。

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