フェンタニル(fentanyl)は、非常に強力な合成オピオイド鎮痛薬であり、医療現場ではがん性疼痛や手術後の激しい痛みの管理などに用いられます。ただし、その強い作用ゆえに乱用による依存や呼吸抑制による死亡リスクが高い薬剤としても知られています。
1. フェンタニルの概要
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分類:合成オピオイド
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作用機序:中枢神経系のμ(ミュー)オピオイド受容体に強く結合し、痛みの伝達を抑制します。
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強さ:モルヒネの50〜100倍の鎮痛効果を持つ
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投与経路:
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注射(静脈内、硬膜外)
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経皮吸収型パッチ(フェントステープ®、デュロテップ®など)
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経口・舌下・点鼻剤(欧米では使用される)
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2. 主な副作用
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呼吸抑制(最も重大)
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傾眠、めまい、吐き気、便秘
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意識障害、錯乱
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耐性や依存性の形成(長期使用時)
3. フェンタニルの視覚・眼への影響
フェンタニルは視覚に直接作用する薬剤ではありませんが、中枢神経系への影響を通じて眼や視覚に関連する症状を引き起こすことがあります。
(1)短期的・急性の影響
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縮瞳(miosis):
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オピオイドの特徴的な所見であり、両側の瞳孔が著明に縮小します。
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視界のぼやけ(霧視)や複視:
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中枢性の意識混濁や眼筋制御の乱れに伴うもの
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羞明(しゅうめい):
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瞳孔が縮瞳しても神経過敏な状態では、光への過敏が生じることがあります。
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(2)慢性的な影響
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視覚的幻覚や錯視(まれ):
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高用量あるいは過剰投与時に報告されることがあり、特に他の向精神薬との併用時に生じやすい。
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眼圧や網膜への直接影響は報告されていないが、重度の低酸素血症(呼吸抑制による)で網膜障害の可能性は理論的に考えられます。
4. まとめ:眼科的注意点
影響領域 | 内容 |
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瞳孔 | 強い縮瞳(opioidによる典型) |
視覚 | 一時的なかすみ目・羞明・錯視 |
神経 | 意識障害時に視覚情報の処理低下 |
重症例 | 呼吸抑制→低酸素→視神経や網膜への障害の可能性 |
5. 補足:眼科医として知っておくべきこと
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フェンタニル使用歴のある患者が視覚異常を訴えた場合、中枢性の意識状態、薬剤の過量、縮瞳の影響などを評価する必要があります。
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特に低酸素性脳症後の視覚障害(視覚失認や皮質盲)を鑑別に入れる場合、MRIやVEP検査など神経眼科的評価も重要です。
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