白内障

[No.3761] 白内障と骨折リスクの関係 ― 視力低下がもたらす身体への影響とは?

白内障が或る程度強くなったら、骨折などの事故予防の為にも白内障手術を勧めるべきだという論文です。

白内障と骨折リスクの関係 ― 視力低下がもたらす身体への影響とは?

高齢になると、視力の衰えや骨の弱りといった身体の変化がさまざまに現れます。その代表的なものが「白内障」と「骨折」です。白内障とは、目の中の水晶体が濁って視力が低下する状態で、加齢に伴って多くの方に見られる目の病気です。世界では失明原因の第1位とされ、2020年には1500万人以上が白内障による視覚障害に苦しんでいました。

一方、骨折も高齢者によくみられる問題です。骨密度の低下や運動能力の低下によって、転倒から骨折につながるケースが増加します。特に股関節や脊椎の骨折は、その後の生活に大きな影響を及ぼし、寝たきりや要介護状態になることもあります。

このような背景のもと、最近の研究では「白内障があると骨折のリスクが高くなるのではないか?」という疑問が提起されてきました。白内障により視力が低下すると、段差が見えにくくなったり、距離感がつかみにくくなったりして、転倒しやすくなるためです。

そこで今回ご紹介するのは、イタリアやイギリスなどの研究者が行った大規模な調査、「白内障と骨折のリスク:系統的レビューとメタ分析」(2025年8月発表)です。この研究では、白内障のある人、ない人、そして白内障手術を受けた人(=偽水晶体患者)の3つのグループについて、骨折のリスクを比較しました。

調査の方法と対象

研究チームは、過去の複数の研究から得られたデータを総合的に解析する「メタアナリシス」という手法を用いました。PubMedやEmbaseといった国際的な医学論文データベースから、2024年5月までに発表された16件の関連論文を抽出。総勢約470万人のデータを解析対象としました。

さらに、異なる研究結果を統計的に結びつけて総合的な結論を導く「ベイズ型ネットワークメタアナリシス」も併用し、より信頼性の高い結果を得ることを目指しました。

主な結果

解析の結果、白内障のある人は、白内障のない人に比べて骨折リスクが高いことがわかりました。

  • 白内障あり vs なしの比較では、骨折の「ハザード比(HR)」が1.51倍(P=0.0152)と有意に高くなっていました。

  • ベイズ型メタ分析では、骨折のオッズ比(OR)が3.0倍、ハザード比が1.1倍とされ、白内障が骨折リスクに関係している可能性を示唆しました。

  • 一方で、白内障手術後(偽水晶体)の人では骨折リスクが27%減少しており、手術によってリスクが下がることも示唆されました。

つまり、視力が落ちたままの白内障を放置すると骨折のリスクが上がる可能性があり、逆に白内障手術を受けて視力を改善すれば、転倒や骨折のリスクを減らせる可能性があるということです。

結論と今後の展望

この研究は、白内障が骨折リスクに影響を与える可能性を明確に示した点で非常に意義深いものです。特に、高齢者の視力の低下が単なる“見づらさ”の問題ではなく、生活の安全や健康寿命にも関わる重大な要素であることを改めて示しています。

ただし、研究の証拠レベルは「低〜中程度」であり、今後さらに多くの臨床研究を通して、白内障手術が実際に骨折を予防する因果関係があるのかを検証していく必要があります。

とはいえ、「見づらいけれど生活できているから大丈夫」と白内障を放置するのではなく、視力が原因で転倒・骨折するリスクも考えて、早めの眼科受診と適切な手術のタイミングを検討することが大切です。

高齢者の「見える」を支えることは、そのまま「歩ける」「暮らせる」を支えることにつながるのです。


参考文献

Gallo Afflitto G, Aiello F, Surico PL, et al. Risk of Fractures in Patients With Cataract: A Systematic Review, Meta-analysis, and Bayesian Network Meta-analysis. JAMA Ophthalmol. 2025;132(8):921–934. doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.1890

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