眼科で行う「ステロイドパルス療法」とは
眼科では、通常の治療では抑えられないほど強い炎症や免疫の異常が出た場合に「ステロイドパルス療法」という特別な治療を行うことがあります。これは副作用の可能性もある強力な治療ですが、重症の病気で視力を守るために必要になることがあります。ここでは、その対象疾患、目的、方法、効果、副作用、そして治療後の流れについてご説明します。
対象となる病気
ステロイドパルス療法は、次のような「急激に視力低下や失明の危険がある病気」で用いられます。
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視神経炎(視神経の急激な炎症)
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ベーチェット病や原田病などの重症ぶどう膜炎
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中毒性や免疫異常による網膜・脈絡膜の炎症
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強い眼窩炎症や外傷後の急性炎症
いずれも放置すると回復が難しい視力障害を残す可能性があり、「一刻も早く炎症を抑え込む」必要があります。
治療の目的
ステロイドには強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があります。点眼や内服で効果が不十分な場合に、大量を短期間に静脈から投与することで、急激に炎症を鎮め、視力の回復や病状の進行防止を目指します。
方法
一般的には「メチルプレドニゾロン」というステロイド薬を点滴で投与します。
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投与量:1日1000mgを3日間連続で点滴(24時間ごとに1回)
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投与後は徐々に減量しながら経口ステロイドへ切り替える(ステロイド漸減療法)
入院で行うことが多く、点滴中は血圧・血糖・体調を医師や看護師がしっかりチェックします。
効果
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視力の改善、視野の回復
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炎症の沈静化(眼底の腫れや出血の改善)
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将来の視機能障害の予防
特に視神経炎などでは、早期に治療を始めることで視力回復の可能性が高まります。
考えなくてはいけない副作用
大量のステロイドを一度に使うため、副作用にも注意が必要です。
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一時的な高血糖・高血圧
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不眠、気分変動
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感染症へのかかりやすさ
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胃の粘膜障害(胃潰瘍)
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骨粗鬆症、筋力低下(長期投与時)
多くは一時的なものですが、糖尿病や高血圧のある方では特に注意が必要です。治療中は採血や尿検査を行い、副作用を早期に見つけて対応します。
ステロイド経口漸減療法について
パルス療法で一度に炎症を抑え込んだあと、すぐに薬を中止すると再び炎症が強く出る危険があります。そのため経口のステロイド薬に切り替え、数週間から数か月かけて「少しずつ減量」していきます。
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最初は1日数十mgのプレドニゾロンを内服
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その後、炎症や自覚症状を確認しながら2.5mg~5mgずつ段階的に減らしていく
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完全に中止できるまでの期間は病気の種類や重症度によって異なる
漸減療法中も副作用に注意が必要で、血糖・血圧測定、骨の健康管理、胃薬の併用などが行われます。
まとめ
ステロイドパルス療法は「失明の危険が迫る重症の眼の病気」に対して、強力に炎症を抑え込むために行う治療です。効果が期待できる一方、副作用も伴うため、医師の監督下で入院管理が必要になります。その後は経口ステロイドを徐々に減量しながら治療を続けることで、病気の再燃を防ぎます。
視力を守るための大切な手段であると同時に、患者さんとご家族が副作用を理解し、医療スタッフと協力して治療を続けていくことが重要です。
(当院を含め、市中のクリニックでは通常これを行いません。然るべき病院に患者さんを紹介してそれは行っていただくようにしています。)
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