セマグルチドと目の健康:証拠は多いのに、結論はまだ不明瞭
(日本での商品名:オゼンピック®〈週1回皮下注〉/リベルサス®〈1日1回内服〉)
糖尿病や肥満の治療で注目されるセマグルチド(GLP-1受容体作動薬)。体重減少や血糖コントロールに加え、心血管・腎臓を守る効果も示され、使用は急速に広がっています。一方で「目への副作用は?」という不安も聞かれます。JAMA Ophthalmology(2025年8月14日オンライン)に掲載された論説は、最新の総説(システマティックレビュー/メタ解析)を踏まえつつ、「現時点のエビデンスは量のわりに明快さに欠ける」と指摘しました。
なぜ結論がはっきりしないのか?
総説はセマグルチドの無作為化試験(RCT)を中心に約80件を精査しましたが、多くの試験で眼の有害事象を系統的に測定・報告していないのが実情です。結果として、発生が少ない事象(例:非動脈炎性前部虚血性視神経症=NAION)は過小評価されやすく、両群とも発生ゼロの「ダブルゼロ試験」も多く、真のリスク推定が難しくなります。さらに、GLP-1薬全体のリアルワールドデータ(電子カルテや薬剤監視データベース)を十分に取り込めていない点も、解釈を曖昧にします。
機序についての考え方(仮説段階)
NAIONの原因は完全には解明されていません。視神経乳頭部のうっ血・腫脹や微小循環の破綻が関与すると考えられています。糖尿病患者では、糖尿病性乳頭症がNAIONに似た見え方を示すことがあり、鑑別を難しくします。加えて、セマグルチドで血糖が急速に改善すると、一部で糖尿病網膜症の悪化が起きうることが知られ、同じ流れで乳頭部の変化が表面化するシナリオも想定されます(あくまで仮説)。観察研究では「使用1年後にNAIONリスクがベースラインへ戻る」との報告もあり、急性期の変化が関与する可能性が示唆されています。
実際の診療でどう見る?
現場の実感や大規模データでは、セマグルチド使用後にNAIONなどの症例が急増した明確な兆候はない、というのが今のところの大勢です。もし強い因果関係があるなら、広範な使用状況下で目立つ増加が観察されるはずですが、そのサインは限定的です。したがって、適切な患者におけるセマグルチドの利点(血糖・体重・心腎保護)を、現時点の不確かな眼リスクだけで上回るとは言い難いといえます。
患者さんへの実践的アドバイス
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服用・注射を開始/増量したら、かすみ・視野の欠け・色の見え方の変化などに気づいた時点で眼科受診。
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糖尿病網膜症の既往がある方は、主治医と連携しフォロー間隔を短縮。
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治療薬は自己判断で中止せず、処方医と必ず相談。
今後に必要なこと
眼の有害事象はまれで、RCTだけでは検出が難しい場合があります。今後は、GLP-1薬クラス全体を対象に、電子カルテ・薬剤監視を含む大規模で長期の観察研究、ゼロ事象を適切に扱うベイズ的解析、そして有害事象を最初から系統的に拾い上げる試験設計が求められます。
まとめ(当院の見解)
セマグルチド(オゼンピック®/リベルサス®)は有用性が高い一方、眼のリスクは現時点で不確かです。メリットを活かしつつ、網膜症の既往や視力変化の自覚に応じた丁寧なモニタリングで安全に使う——これが2025年現在の賢い落としどころです。
出典:
Li T, Qureshi R, Subramanian PS. Semaglutide and the Eye—The Literature Is Excessive but the Clarity Is Minimal. JAMA Ophthalmology. Online first: 2025-08-14. doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.2493.
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