ワクチンの利点とリスク ― DANFLU-2試験が示すもの
研究の背景
ワクチンは感染症から私たちを守るだけでなく、心血管疾患や肺炎といった重篤な合併症を減らす効果も期待されています。今回紹介するのは、デンマークで行われたDANFLU-2試験という大規模研究を解説したJAMA Cardiology誌の論説です。この研究は「標準用量」と「高用量(HD)」のインフルエンザワクチンを比較し、その効果を検証しました。
主な結果
DANFLU-2試験の結論は次の通りです。
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インフルエンザや肺炎による入院率:標準用量と高用量の間に明らかな差はありませんでした。
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心血管イベントの予防効果:HDワクチンにわずかな優位性が見られましたが、その差は小さく、臨床的にどれほど意味があるかは議論が残ります。
具体的には、HDワクチンを約762人接種して初めて1件の心肺疾患による入院を防げるという規模感でした。効果がゼロではないにせよ「違いが違いを生むほど大きいか」と問われれば、慎重な評価が必要になります。
公衆衛生上の意味
この研究は「高用量ワクチンを使えば、年間で最大100万人の入院を防げる可能性がある」とも試算しています。しかし、その効果は小さく、コストや供給体制を考慮すれば、直ちに標準用量からHDに切り替える決定打にはなりにくいのです。
むしろ重要なのは、研究の進め方そのものです。DANFLU-2では電子カルテや保険データを結合して、通常の診療の中で低コストかつ効率的に大規模試験を実施しました。これは「学習する医療システム」を構築するうえで大きな一歩といえます。
米国などでは膨大な医療データが存在するにもかかわらず、それを研究や臨床改善に十分に活かせていない現状があります。今回の試験は、実用的で迅速なデータ活用が可能であることを示した点で、インフルエンザワクチンの効果以上の意義を持っています。
眼科医としてのコメント
目の病気に直接関係しない研究に思えるかもしれませんが、「エビデンスの質を高め、医療現場に生かす」という姿勢は眼科領域でも同様に重要です。たとえば近視進行予防の治療や緑内障の新しい薬剤評価でも、同じ課題が存在します。
小さな効果でも、患者さんにとっては「入院しなくて済む」「失明を防げる」といった大きな意味を持つ場合があります。一方で、過剰な期待やコスト増加に見合わない介入は避けなければなりません。
この研究が示すのは「数字の差だけではなく、その差が実際に人々の生活にどれだけ影響を与えるか」を考える大切さだと思います。眼科でも「視力0.1の改善」「OCTでの微細な変化」などをどう解釈するか、同じ議論があります。
つまり、この評論論文は「ワクチン」だけでなく「医療全体に共通する課題」を教えてくれるものだと考えています。
出典
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Robert M. Califf. Evidence on Benefits and Risks of Vaccines—Challenges in Science, Medicine, Public Health, and Culture. JAMA Cardiol. Published online August 30, 2025. doi:10.1001/jamacardio.2025.3521
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