左眼瞳孔が右より大きく、ライトに反応しない。しかし近くを見るときに縮瞳する反応は残っている。
Adie(アディー)の緊張性瞳孔について
目の瞳孔(ひとみの大きさ)は、自律神経の働きによって明るさに応じて開いたり閉じたりしています。ところが、この仕組みに異常が生じて、片方の瞳孔が大きく開いたまま縮みにくくなることがあります。これを Adie(アイディー)の緊張性瞳孔 と呼びます。
主な症状
Adie瞳孔は多くの場合 片眼に発症 します。特徴的な症状は次のようなものです。
- 明るい場所でも片方の瞳孔が大きい(散瞳)。
- 光に対して瞳孔が縮みにくい、またはほとんど縮まない。
- しかし「近くを見るとゆっくり縮む」現象(近見反応の残存)がのこっている。
- 若い女性に比較的多く見られる傾向があります。
患者さん自身は、
- まぶしく感じる(羞明)
- ピントが合いにくい、文字がかすむ(調節力の喪失)
といった不快感を訴えることがあります。ただし症状が軽い場合は、本人が気づかずに検診や眼科受診で偶然見つかることも少なくありません。
診断の方法
診断では、まず眼科で瞳孔の反応を詳しく観察します。
- 光に対する反応は弱いか消失
- 近見時には遅いながらも縮瞳する
という「光・近見反応解離」が大きな手がかりになります。
さらに、特殊な検査として 低濃度のピロカルピン点眼試験 を行うことがあります。Adie瞳孔では神経の働きが低下しているため、通常の瞳孔では反応しないほど薄いピロカルピンでも縮みます。これにより確定診断を助けます。
経過と治療
Adie瞳孔は基本的に 良性の病気 であり、視力を失うようなことはありません。したがって、多くの場合は経過観察で十分です。
- 発生間もなくで、まぶしさが強い場合にはサングラスを使用することができます。
- 近くが見えにくい場合には老眼鏡で調整する
といった対処で生活に支障なく過ごせます。
進行して両眼に広がることは稀で、時間が経つと瞳孔がやや小さくなり、症状が目立たなくなることもあります。神経内科に相談してみることもあります。
重要な鑑別診断
ただし、「片方の瞳孔が大きい」という所見を安易にAdie瞳孔と片付けてはいけません。特に注意すべきなのが、動眼神経麻痺 です。これは眼を動かす神経が障害されて、
- 瞳孔の散大
- 眼球の動きの制限(童顔神経麻痺なら上下と内向きの運動が弱くなり、瞼も下がる)
- 複視(ものが二重に見える、上記の眼球運動障害のため)
を伴う危険な状態です。
なかでも、内頸動脈と後交通動脈の分岐部にできる動脈瘤(IC-PC動脈動脈瘤) が原因の場合は破裂すると命に関わることがあります。眼科での診察時に、瞳孔不同(左右の瞳の大きさの違い)を見逃さず、必要に応じて脳神経外科的な精査を行うことが重要です。
まとめ
Adieの緊張性瞳孔は、片眼の瞳孔が大きく、光に対して反応が弱いものの、近くを見るとゆっくり縮むという特徴をもった良性の病気です。基本的には経過観察でよく、生活の支障がある場合は眼鏡やサングラスで対応します。ただし、瞳孔の異常はときに動脈瘤による動眼神経麻痺など重大な病気のサインであることもあるため、「瞳の左右差」を安易に放置せず眼科でしっかり診てもらうことが大切 です。
左Adie瞳孔
A:左瞳孔は直接光刺激に対して反応が乏しい一方で、右瞳孔は強い共同反応を示します。
B:両瞳孔は近方注視時に縮瞳します。左瞳孔の近見反応は光に対する反応よりも良好であり、これは「光近見解離」と呼ばれます。
C:遠方注視に再び焦点を合わせた後、右瞳孔はすぐに再拡大しますが、左瞳孔の再拡大は遅く(右瞳孔よりも小さいまま)、これは緊張性の兆候です。
(Lanning B. Kline 医師のご厚意による)
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