糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.4148] 黄斑前膜(macular epiretinal membrane)──手術を勧めるタイミングとは?

Q: 黄斑前膜(macular epiretinal membrane)があり、OCT(光干渉断層計)で“5ラインズ”撮影した時には網膜の浮腫または肥厚が明らかですが、変視症はわずかで矯正視力の低下もありません。この患者さんに大学病院などでの硝子体手術と人口水晶体置換手術を勧めるとする場合に、それを正当化できる視力や歪視の程度はどの程度と説明されますか。(図は;眼底(ERM/マキュラーパッカー)例:ASRS Retina Image Bank。に示された強い先性膜の見られる症例。)
A: 

黄斑前膜(macular epiretinal membrane)──手術を勧めるタイミングとは?

黄斑前膜とは、網膜の中心である「黄斑」の表面に、薄い膜が張ってしまう病気です。網膜は光を感じる神経の層であり、その中央には最も細かい視力を担う黄斑があります。この部分が膜に引っ張られてゆがむと、ものが歪んで見えたり、視力が下がったりします。

最近では、OCT(光干渉断層計)という機械で網膜を断層的に観察できるようになり、黄斑前膜は比較的簡単に診断できます。OCTの「5ラインズスキャン」という撮影法では、中心を通る5本の断面画像を重ねて見ることで、膜の厚みや網膜のたわみ、むくみ(浮腫)の有無などが詳細にわかります。

ご質問のように、OCTでは黄斑が明らかに厚くなっていても、視力がよく、歪みも軽い場合があります。このようなときに、すぐに大学病院などで硝子体手術(膜はがし手術)や水晶体の同時手術を受けた方がよいのかどうかは、悩ましい問題です。


手術の目的と方法

硝子体手術では、目の中のゼリー状の硝子体を取り除き、黄斑に張りついた膜を顕微鏡下で丁寧にはがします。場合によっては同時に白内障手術を行い、人工の水晶体を入れることもあります。手術自体は安全性の高いものですが、手術後に視力がどの程度回復するかは、膜の状態や網膜の変形の程度に左右されます。


手術を勧める目安となる視力・症状

現在の多くの眼科では、次のような場合に手術を検討することが多いとされています。

  1. 矯正視力が0.5〜0.6以下に下がった場合

     → 日常生活で新聞の小さな文字が読みにくい、運転時に見づらい、仕事に支障が出る、などが目安になります。

  2. 変視症(ものが歪んで見える)が強い場合

     → 方眼紙や格子模様を見たときに線が波打つ、真っ直ぐな柱が曲がって見えるなど、変形が強い場合には手術が検討されます。

  3. 両眼視のバランスが崩れ、片眼での見づらさが日常生活に影響する場合

     → 片方の目だけ像が歪んで見えると、両眼で見たときに頭痛や疲れ、読書の困難が生じることがあります。


視力が良い場合は経過観察も

矯正視力が1.0近く保たれており、歪みが軽い場合には、すぐに手術を行わず定期的な経過観察が一般的です。

黄斑前膜は進行がゆっくりで、数年変化しないことも多く、手術のタイミングを見極めることが大切です。

また、視力が良い段階で手術を行っても、術後に劇的な改善が得られないこともあります。さらに、手術には白内障の進行や網膜剥離など、まれではありますが合併症のリスクもあるため、症状の程度とリスクを慎重に天秤にかける必要があります。


医師と相談しながら決めること

したがって、「OCTで膜が見える」「網膜が厚くなっている」だけで手術を急ぐ必要はありません。視力が0.7以上あり、歪みが軽い場合には、半年〜1年ごとのOCT検査で経過を見ながら、変化が出た時点で大学病院への紹介を検討するのが自然です。

一方で、日常生活に支障を感じ始めた場合、あるいはOCTで膜の牽引が進み中心の形がつぶれてきた場合には、早めに手術を相談することが望ましいといえます。


まとめ

黄斑前膜は、OCTで膜の厚みや網膜のたわみがはっきり見えても、視力や歪みが軽い場合はすぐに手術をする必要はありません。

一般的には、矯正視力が0.5〜0.6以下になったり、歪みが日常生活で気になるようになった時点が手術を考える目安です。

手術にはリスクも伴うため、定期的に経過を見ながら、担当医と相談して最適な時期を決めることが大切です。

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