白内障

[No.4288] 田舎の冬を知らせる干し柿作りと、私たちの目の健康の話

田舎の冬を知らせる干し柿作りと、私たちの目の健康の話

今年も、昨日干し柿が届けられてきました。 毎年11月になると、私の田舎(松本市)では干し柿作りが始まります。渋柿の収穫は意外に手間がかかり、特に重要なのは「へたをT字型に残す」ことです。干す際に縄やひもにかけるための大切な部分で、これが無いと吊るして乾かすことができません。実際の作業では、10個ほど実のついた枝ごと切り取ることが多く、高い木では踏み台に上って高枝ばさみや電動のこぎりを使う潜在的に危険を伴う作業です。下記の枝は滑りやすく、更にもろいので体重を掛けると簡単に折れます。その後、一個一個の実を枝から外し、女衆の手で皮を丁寧にむいていきます。かつては母がすべて自分で行っておりましたが、最近は地元の土建屋さんとその奥様がこの労力のかかる作業を担い、完成した干し柿を東京の医院まで送ってくださっています。収穫の日が合えば、私も手伝おうとしています。

 (庭も柿の葉に埋め尽くされます。)皮をむいた柿を軒先に吊るし、冬の風にさらして数週間。12月10日ごろになると、ようやく柔らかな甘さを湛えた干し柿になります。かつては多くの方が「楽しみにしています」と受け取ってくださったのですが、近年は干し柿が苦手な方も増え、差し上げる数も少しずつ減ってきました。それでも毎年、10個入りのおよそ40袋を作り続けています。「好きです」と言ってくださる方がいる限り、私はこの田舎からの冬の便りを絶やしたくないと思っています。できた干し柿も年を越すと旬を過ぎて固くなってしまします

 (これは高円寺の他人の家の柿の葉っぱですが、美しく赤くなっています。)我が家の柿の木は大きく、家族だけではとても収穫しきれません。そのため高い枝に残る実は「鳥の餌」と割り切っています。実際、残った柿は野鳥の冬の自然の貴重な食料になります。ところが最近、私の故郷・松本周辺では、里山に熊が柿を求めて下りてくる例が増えていると聞きます。背景には耕作放棄地の増加や、山の生態系の変化があると考えられています。人と野生動物の接点が増えることで、農作物被害や人的被害も増える傾向にあり、地域としての対策が求められる状況です。

 干し柿には、「ゆっくり時間をかけて熟すものほど甘くなる」という伝承があり、実際に長期間干すことで糖度が高まり、食感も変化します。また、昔から干し柿にはビタミンAやポリフェノールが多く含まれ、「目に良い食べ物」として語られることもあります。特にビタミンAは網膜の健康に関わる大切な栄養素で、夜間視力に関係するロドプシンという色素の再合成にも必要です。もちろん干し柿だけで必要量が賄えるわけではありませんが、冬にビタミンAの補給源として重宝されてきた背景には、こうした理由もあります。

 眼科医の立場から付け加えると、冬は乾燥によるドライアイが増える季節でもあります。気温低下で涙の蒸発が進みやすく、屋内では暖房による乾燥が拍車をかけます。干し柿を吊すために風をよく通す季節は、同時に目の乾燥が起こりやすい季節でもあります。目の疲れや異物感が続く場合は、無理をせず点眼や保湿、早めの受診をお勧めします。

 毎年送られてくる干し柿を見ると、私の家族が過ごした山里の景色や、今も作業を引き受けてくださる方々の温かな手仕事が思い出されます。田舎の冬の風物詩は、自然の恵みと人の営みが結びついて続いてきた文化でもあります。受け取ってくださる方がいる限り、私はこのささやかな季節の贈り物を続けていきたいと思います。

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