白内障

[No.4492] 自己免疫性脳炎をどう理解するか

自己免疫性脳炎をどう理解するか清澤のコメントを添えて

100年以上前、内科医の父と称されるWilliam Oslerは「梅毒を知る者は医学を知る」と語りました。現代において、その言葉は自己免疫性脳炎(Autoimmune Encephalitis:AE)にも当てはまると言えるでしょう。AEは、自分の免疫が脳を攻撃してしまう病気の総称で、神経内科、精神科、小児科、集中治療など多分野にまたがる重要な疾患群です。

症状は多彩で、けいれん、急激な物忘れ、性格変化、幻覚や妄想、異常運動、意識障害などが現れます。一見すると、てんかんや統合失調症、認知症のように見えることもあります。しかし大きな特徴は、適切な免疫療法により大きく改善し、時に回復が期待できる点です。これは慢性の神経変性疾患とは異なります。

代表的なのが抗NMDA受容体脳炎です。若年女性に多く、初期は精神症状のみで始まることもあります。発症早期に精神科疾患と誤認されることもありますが、髄液検査やMRI所見が診断の鍵になります。

発作はAEでよくみられますが、急性期の発作がそのまま慢性てんかんに移行するとは限りません。かつては「自己免疫性てんかん」と早期にラベリングされ、長期の抗てんかん薬治療が続けられる例もありました。しかし現在は、急性症候性発作と慢性てんかんを区別する重要性が強調されています。不必要な診断は社会的影響も伴います。

また、抗NMDA受容体脳炎では、数か月植物状態のように見えても、その後回復する例が報告されています。従来「6か月以上意識が戻らなければ予後不良」と考えられてきましたが、この疾患では必ずしも当てはまりません。原因疾患を正確に見極めることが予後予測の鍵です。

さらに、ヘルペス脳炎後に約25%で二次的に自己免疫性脳炎が生じることも判明しました。これは単なる後遺症ではなく、感染後に免疫反応が新たに起こる病態です。こうした発見は、従来曖昧だった診断概念を再定義してきました。

一方で注意すべきは、抗体検査の過信です。血清のみの抗体陽性で安易に診断すべきではありません。症状、髄液所見、画像所見を総合的に判断することが不可欠です。

ここで清澤のコメントを加えます。本論文の核心は、「自己免疫性脳炎を大きな一つの箱にまとめてはいけない」という点にあります。AEの世界でも、

・抗NMDA受容体脳炎
・抗LGI1脳炎
・抗IgLON5

といった疾患は、症状が似ていても病態・治療反応・予後が異なります。もし「自己免疫精神病」などという曖昧な枠にまとめてしまうと、臨床試験が混乱し、治療効果の評価が歪み、予後予測も困難になります。

これは、多発性硬化症と視神経脊髄炎、MOG抗体関連疾患を一つの病気と考えるのが今日では誤りであるのと同じです。原因が違えば、治療も予後も違うのです。

自己免疫性脳炎の研究は、神経と免疫の関係を再定義しつつあります。重要なのは、症状でまとめるのではなく、病因で分けること。それが正確な診断と治療、そして患者さんの未来を守ることにつながります。

出典:Dalmau J, et al. Beyond autoimmune encephalitis—insights and interdisciplinary lessons. JAMA Neurology, 2026.

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