白内障

[No.4526] 若年者の片眼性前嚢下白内障

若年者の片眼性前嚢下白内障

強度近視のある30歳代男性の片眼に前嚢下白内障を認め、本日までに矯正視力が0.6まで低下し、眼底写真も混濁のため不鮮明となったため白内障手術目的で紹介した、という状況。若年者の片眼性前嚢下白内障では、まず原因の整理が重要になります。

前嚢下白内障(Anterior Subcapsular Cataract)は、水晶体前嚢直下に線維化様の混濁を生じるタイプの白内障です。古典的な原因としては、鈍的外傷、アトピー性皮膚炎、電撃傷、ぶどう膜炎などが知られています。ご指摘のとおり、若年時の外傷やアトピー性皮膚炎はまず考慮すべきですが、いずれも該当しない場合には、さらにいくつかの可能性を検討する必要があります。

第一に、軽症あるいは無自覚の前部ぶどう膜炎の既往です。細胞反応が軽微で見逃されていた場合や、散発的にステロイド点眼を使用していた既往がある場合には、慢性的な炎症刺激により水晶体上皮細胞が変化し、前嚢下混濁を形成することがあります。患者自身が「炎症」と認識していなくても、軽い充血や違和感程度で経過していた可能性は否定できません。

第二に、ステロイド曝露の有無です。内服だけでなく、吸入ステロイド(喘息)、点鼻薬(アレルギー性鼻炎)、皮膚科外用薬なども累積量が多ければ白内障形成に関与します。ステロイドでは後嚢下白内障が典型ですが、前嚢下様の変化が報告されることもあります。健康食品や自己注射など、患者が医薬品と認識していない製剤の確認も重要です。

第三に、眼内処置やレーザー歴です。網膜裂孔に対する光凝固、硝子体注射、強度近視に関連した網膜治療などがあれば、水晶体前面への影響を再評価します。

第四に、糖代謝異常などの全身因子です。若年であっても境界型糖尿病やステロイド誘発高血糖が背景にあることがあります。HbA1cの確認は妥当です。

第五に、電気的・放射線曝露です。典型的には両眼性ですが、片眼優位に進行する例もあります。

それでも明確な原因が見つからない場合、特発性と判断せざるを得ない若年性前嚢下白内障も実際には一定数存在します。

では強度近視は関連するか、という点ですが、結論としては、強度近視と前嚢下白内障との直接的関連は強くありません。強度近視で頻度が高いのは核白内障や後嚢下白内障であり、酸化ストレスの増加や硝子体液化、栄養環境の変化などが関与すると考えられています。前嚢下白内障は典型的な「近視性白内障」の型とは言いにくく、「強度近視だから前嚢下白内障が生じた」と説明するのはやや無理があります。ただし、強度近視は白内障発症年齢を早める背景因子にはなり得ます。

片眼性であるという点は重要です。両眼性の全身性因子よりも、軽度外傷(記憶に残らないスポーツ外傷など)、無自覚ぶどう膜炎、片眼のみへの局所ステロイド曝露など、局所因子を考える方が理論的には自然です。

なお、強度近視を合併している場合の白内障手術では、網膜裂孔や術後網膜剥離のリスク、硝子体液化、Zinn小帯脆弱性などへの配慮が必要です。術前に網膜周辺部の十分な評価を行い、リスク説明をしておくことが重要です。

まとめると、外傷やアトピーが否定的な若年片眼性前嚢下白内障では、まずステロイド曝露歴と軽度ぶどう膜炎の既往を再確認し、次に糖代謝異常や微小外傷を検討します。それでも原因が特定できない例は存在します。強度近視は白内障の早期発症には関与し得ますが、前嚢下白内障の直接原因とは考えにくい、という整理が妥当でしょう。

 

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