全身病と眼

[No.4536] 慢性・非感染性下痢の診断と治療(JAMA 2026年3月2日レビュー/ポッドキャスト要点)、目に関する追記あり。

慢性・非感染性下痢の診断と治療(JAMA 2026年3月2日レビュー/ポッドキャスト要点)

慢性の下痢という概念を患う人の割合は6-7%もあるということです。心当たりのある方はこの記事をご覧ください。

「下痢が続く」といっても、実は人によって意味が違います。JAMAの臨床レビューでは、慢性下痢を「軟便〜水様便が4週間以上続く状態」と定義し、米国の成人の約6〜7%が該当し得る、生活の質を大きく落とす症状だと述べています。

まず大事なのは“症状の中身”の確認です。回数が増えたのか、便の形が崩れたのか、急に行きたくなる切迫感が強いのか、失禁があるのか。とくに便失禁は、患者さんが言い出しにくい一方で困りごとの核心になりやすく、丁寧な聞き取りが必要だと強調されています。

次に、問診で原因の方向性を絞ります。食後に悪化し、絶食(食べない時間)で軽くなるなら「浸透圧性(消化吸収の問題)」を示唆します。反対に、食事と無関係で、夜間にも起きてトイレで目が覚めるタイプは「分泌性」を疑います。ここから、検査や治療の優先順位が変わります。

慢性・非感染性下痢で最も多い原因として挙げられるのが、下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)と機能性下痢です。IBS-Dは腹痛・腹部不快感が伴い、排便で軽くなったり増悪したりします。機能性下痢は便が緩いことが中心で、強い腹痛が前面に出にくいと説明されています。

一方で、「見逃してはいけない」原因もあります。レビューと対談では、分泌性の慢性下痢として胆汁酸下痢(胆汁酸吸収不良)と顕微鏡的大腸炎が重要だと述べられています。胆嚢摘出後や回腸末端の手術歴がある方で疑いやすく、IBS-Dとされている人の一部にも胆汁酸が関与する可能性がある、という視点は臨床的に有用です。顕微鏡的大腸炎は、内視鏡で見た目が“ほぼ正常”でも、生検で診断されるため、疑ったら大腸内視鏡+ランダム生検が要になります。また、PPI、NSAIDs、一部の抗うつ薬(SSRIなど)開始後に発症していれば薬剤性も含めて強く疑います。

初期検査としては、貧血や炎症の手がかりを拾うCBC、電解質などの代謝パネル、甲状腺機能(TSH)、便カルプロテクチン(炎症性腸疾患のスクリーニング)、そしてセリアック病の血清学的検査(tTG-IgA+総IgA)を推奨しています。特にセリアック病ではIgA欠乏があり得るため、総IgAを同時に見る意義が説明されています。

さらに、血便、原因不明の体重減少、鉄欠乏性貧血などの“赤旗(alarm features)”があれば、内視鏡評価をより積極的に行うべき、というのが基本方針です。年齢やリスクに応じて大腸がん検診の観点も絡みます。

治療は原因別が原則ですが、現場で役に立つ「段階的アプローチ」も示されています。食事・生活では低FODMAP食(発酵性糖質を減らす)を試す選択肢があり、薬物では止痢薬(例:ロペラミド)、抗コリン薬、ビスマス製剤、5-HT3受容体拮抗薬などが言及されています。胆汁酸下痢が疑わしければ胆汁酸吸着薬(コレスチラミン等)、IBS-Dで腹痛が強く反応が乏しければ追加治療(リファキシミン等)を検討する、という整理です。

眼科医としての一言

慢性下痢は「よくあるけれど放置されやすい症状」です。脱水や栄養状態の悪化は全身の不調につながり、服薬(鎮痛薬、胃薬、抗うつ薬など)も引き金になることがあります。「夜間に起きる」「体重が減る」「血が混じる」などのサインがあれば、自己判断せず消化器内科で早めに評価を受けるのが安全です。

出典

JAMA “Chronic, Noninfectious Diarrhea: A Review”(2026年3月2日公開)/JAMA Network Audio(McDermott医師×Chey医師 対談)

慢性下痢と眼症状に関する追記:

慢性下痢症候群について解説する際に、眼科的視点から付け加えておきたい点があります。慢性下痢は単なる消化器の問題にとどまらず、全身性疾患の一症状として現れることがあり、その結果として眼にも影響が及ぶ場合があるからです。代表的なのは、潰瘍性大腸炎クローン病などの炎症性腸疾患です。これらでは全身の免疫異常を背景に、上強膜炎や強膜炎、ぶどう膜炎などを合併することがあります。とくにぶどう膜炎は腸の症状とは独立して再発することもあり、視力に影響を及ぼすことがあります。また、吸収不良を来すセリアック病では、ビタミンA欠乏による夜盲や角結膜乾燥が起こることがあります。慢性的な栄養障害は視機能に直結します。さらにベーチェット病の腸管型では、慢性下痢とともに再発性ぶどう膜炎や網膜血管炎を生じ、視力予後に関わることもあります。このほか、慢性感染後の反応性関節炎に伴う結膜炎、ビタミンB12やE欠乏による視神経障害、糖尿病性自律神経障害による下痢と網膜症の併存なども知られています。慢性下痢と眼症状が同時にみられる場合には、背景に全身性炎症や栄養障害が隠れていないかを意識することが大切です。

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