中年以降に相談の多い「まつ毛ダニ」 ― 眼科での考え方
まつ毛ダニとは
「まつ毛ダニ(デモデックス)」は、人の皮膚や毛包に寄生する小さなダニで、特に中高年になると睫毛の毛根部や皮脂腺に棲みつくことがあります。日本では特別な感染症としての規制対象ではなく、皮膚常在の一部とみなされています。しかし増殖すると局所炎症や不快症状を起こし、眼科でも相談を受けることが増えています。
症状
まつ毛ダニの存在自体は必ずしも病気ではありませんが、増殖すると次のような症状を訴えることがあります。
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目のかゆみや異物感
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朝方に多い目やに
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睫毛の根もとにフケのような付着物(cylindrical dandruff)
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眼瞼縁炎(赤み、腫れ、ただれ)
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ドライアイ様の症状(乾燥感、しみる感じ)
これらは「眼瞼炎」や「ドライアイ」と重なるため、必ずしも「まつ毛ダニ」とすぐには診断できません。
細隙灯での所見
細隙灯顕微鏡で直接ダニの体を認めることは稀です。臨床的に「まつ毛ダニを疑うサイン」とされるのは、
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睫毛根部に円筒状のフケ(cylindrical dandruff)が付着していること
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まつ毛が不自然に抜けやすいこと
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まぶたの慢性的な充血や腫れが長引くこと
です。これらが揃うと、デモデックスの関与が考えられます。
検査法
眼科で実際に確定する方法としては、
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睫毛を数本抜去し、顕微鏡下で観察する方法(まつ毛根部にダニが付着しているか確認)
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光学顕微鏡に装着したスライドに置いて油を垂らし、デモデックスの体を確認する方法
が用いられます。ただし臨床現場では必須ではなく、典型的な所見と症状の組み合わせから推定されることが多いです。
治療とケア
「デモデックスがいるからすぐ治療」というよりも、症状が強い場合や再発を繰り返す眼瞼炎のケースで対応します。
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洗浄
市販のまつ毛用アイシャンプーや低刺激の洗浄剤で、睫毛の根元を丁寧に清拭します。これが第一選択で、毎日のセルフケアが重要です。 -
外用薬
- ティーツリーオイルを含む洗浄製品はダニの活動抑制に有効とされます(海外報告多し)。
- 眼科では 抗菌薬や抗炎症点眼薬 を併用して症状を和らげることもあります。
- 日本ではダニを直接駆除する点眼薬や軟膏は承認されていませんが、抗菌・抗炎症効果を持つマクロライド系軟膏(エリスロマイシン眼軟膏など) を就寝前に睫毛根部に塗布する方法が補助的に用いられることがあります。 -
併存症の管理
脂漏性皮膚炎や酒さ(rosacea)が背景にある場合、皮膚科と連携し全身管理を行います。まつ毛ダニはこれらの皮膚疾患と併存することが多いからです。
まとめ
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まつ毛ダニは常在微生物の一部だが、増えると かゆみ・目やに・フケ・慢性眼瞼炎 の原因になる。
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細隙灯で直接ダニを視認するのは稀で、睫毛根部の円筒状フケが代表的な臨床サイン。
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確定診断には 睫毛の抜去顕微鏡検査 が有用。
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治療はまず 洗浄習慣、次いで 抗菌・抗炎症軟膏 の併用が現実的。
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再発例や難治例では 皮膚科との連携 が推奨される。
患者さんから「まつ毛ダニがいるのでは?」と聞かれることは珍しくありません。その場合、過度に不安を煽らず、日常的な洗浄とまぶたの清潔保持が第一歩であることを伝えるのが大切です。症状が持続する場合は眼科を受診し、必要に応じて顕微鏡検査や適切な外用治療を受けるよう勧めるのが望ましい対応です。



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