緑内障

[No.3117] 取引型医療と迫りくる緑内障公衆衛生危機

取引型医療と迫りくる緑内障公衆衛生危機

記事紹介

清澤のコメント:私は緑内障手術からは既に手を引いていますが、米国では手術に労力がかかり、償還が不十分なため、その成果価値の高い線維柱帯切除術や排出デバイス手術を多くの眼科医が提供を控え、割の良い軽症例へのレーザーやロトミーに流れることが公衆衛生への長期的な悪影響を懸念させると言いたいようでした。昨年の最も重要な論文の中で挙げられた巻頭言を紹介します。学会速報だけでは何を言っているのか把握しきれなかったので原文に戻って短縮翻訳して論旨が理解できました。

要旨: 取引型医療と迫りくる緑内障公衆衛生危機

アメリカでは一人当たりの医療費が他のほとんどの高所得国を大きく上回っていますが、その健康アウトカムは低コストの国々を下回ることがよくあります。貧困、無保険者の多さ、医療制度への不信感といった要因に加え、制度的問題がこの格差に寄与しています。さらに見過ごされがちなのが、医療がますます「取引型 transactional」になっていることです。

医療における取引型と変革型(transformational)の関係

現代医療では、サービスと対価の交換に基づく取引型transactionalの関係が主流となっています。この関係は、理想とされる相互尊重や共有目標に基づくものではなく、自動車修理工と車の所有者の関係のようですこの取引型の関係は、保険会社やプライベートエクイティからの財政的圧力によって悪化し、医師と患者の信頼関係を損なっています

これに対し、感情的な投資や共有価値観、健康改善を目指した協力を重視する「変革型アプローチtransformational」は、信頼を回復し、より良い結果をもたらす可能性があります。しかし、このアプローチは、特に緑内障のような疾患の分野では多くの障害に直面しています。

緑内障とその治療課題

緑内障は世界的に最も一般的な不可逆的失明の原因であり、数百万人に影響を及ぼします。多くの患者は治療に良好に反応しますが、5%から12%の患者は急速に進行し、重度の視力喪失に至ります。眼圧を下げる治療は進行を遅らせる効果があるとされていますが、外科的手法の革新は軽症例に集中しており、これは市場規模が大きく、収益性が高いためです。

一方、重症緑内障に対する従来の手術法(例: トラベクレクトミー、排出デバイス挿入)は、過去20年間でほとんど進展がありません。シュレム管を標的とする新しい技術が臨床試験で支持されていますが、これらの採用は臨床的証拠よりも、しばしば保険償還の方針に左右されています。このような財政的インセンティブ主導の実践は患者ケアを損ない、医療専門職への信頼をさらに低下させます。

財政主導型実践の影響と解決策

米国でのトラベクレクトミーや排出デバイス手術の減少は、公衆衛生への長期的な影響を懸念させます。緑内障は高齢者や人種的マイノリティなど、社会的不平等の影響を受けやすい人々に不均衡に影響を及ぼします。効果的な手術法があるにもかかわらず、これらの手術は労力がかかり、償還が不十分なため、多くの眼科医が提供を控えるようになっています。

潜在的な解決策として、料金ベースの償還モデルから長期的な患者アウトカム(例: 眼圧目標の達成や視力の維持)に基づく「成果型償還Transactional Care」モデルへの移行が挙げられます。しかし、緑内障の多様性や進行予測の困難さが、このモデルの実施を難しくしています。

結論

緑内障の事例は、アメリカ医療における取引型ダイナミクスが公衆衛生に与える影響を示す一例に過ぎません。医師と患者の信頼関係を見直し、患者中心のケアを提供することが、緑内障公衆衛生危機の回避に向けた重要な一歩となるでしょう。

原文:Transactional Care and the Looming Glaucoma Public Health Crisis Kuldev Singh, MD, MPH (kuldev.singh@stanford.edu)

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