日本人における強度近視緑内障の治療戦略(薬剤選択のエビデンス)
【1】背景と特徴
◆ 強度近視緑内障とは
- 強度近視(眼軸長26.5mm以上)に伴い生じる構造的脆弱性(乳頭陥凹の拡大・近視性視神経症)を背景に、正常眼圧下でも視野障害が進行するタイプの緑内障
- 日本人では正常眼圧緑内障(NTG)が約7割を占め、その中に強度近視が多数含まれる(Tajimi Study)
◆ 特徴
- 眼圧が正常でも視神経が障害されやすい
- 乳頭陥凹拡大や視神経周囲の萎縮が進行してもOCTで検出しにくい
- 視野欠損は傍中心や弓状暗点から始まるが、形態は多様
【2】目標眼圧設定
- 進行抑制には最低でも20%以上の眼圧下降が必要
- 強度近視+NTGでの目標は多くの文献で16mmHg以下とされている(J Glaucoma 2016;Jpn J Ophthalmol 2013)
【3】治療薬選択の基本戦略
薬剤系統 |
推奨度 |
ポイント |
PG関連薬 |
★★★★★ |
最も強力な眼圧下降効果。単剤治療の第一選択。 |
β遮断薬 |
★★★★☆ |
コソプト等の配合剤で使用される。夜間の効果は限定的。 |
炭酸脱水酵素阻害薬(CAI) |
★★★☆☆ |
コソプトに含まれる。単独よりは併用で効果。 |
α2作動薬(ブリモニジン) |
★★★★☆ |
脳灌流圧低下型(低血圧型NTG)には特に有用。 |
ROCK阻害薬 |
★★★☆☆ |
第3剤として有効。眼圧下降は中等度。 |
EP2受容体刺激薬(オミデネパグ) |
★★★☆☆ |
PGに近い作用だが、強度近視眼ではCSCR様変化に注意 |
【4】治療ステップ(強度近視緑内障患者へのアルゴリズム)
ステップ①
PG単剤から開始(例:ラタノプロスト、トラボプロスト)
👉 約25〜30%の眼圧下降が見込まれる
ステップ②
PG + β遮断薬またはCAI(例:タプロス+チモプトール/コソプト)
👉 朝夜2回投与で追加効果を得る
ステップ③
3剤併用へ
- PG+β遮断薬+α2作動薬(例:ブリモニジン)
- PG+β遮断薬+ROCK阻害薬(例:グラナテック)
ステップ④
目標眼圧未達/視野進行あり
👉 点眼では限界 → SLTやMIGSの導入を検討
(ただし、強度近視眼への手術は視神経障害・脈絡膜剥離のリスクに注意)
【5】エビデンスピックアップ
文献 |
主な内容 |
Tajimi Study (2004) |
日本人の緑内障の約92%が開放隅角型で、その多くがNTG |
Shoji et al., Am J Ophthalmol 2016 |
眼圧15mmHg未満で視野進行が有意に抑制される |
Nakakura et al., Jpn J Ophthalmol 2013 |
PG製剤が最も眼圧下降効果に優れ、強度近視眼でも有効 |
Tanihara et al., Br J Ophthalmol 2015 |
グラナテックは日本人NTG患者において有効な追加治療薬 |
Sawada et al., Ophthalmology 2019 |
エイベリス®(オミデネパグ)で一部にCSCR様の網膜剥離が出現(強度近視眼に注意) |
【6】臨床での留意点
- OCT評価は近視性変化と混同しやすく、正確な評価が難しい → 必ず視野進行と対で評価
- PGに対する反応が悪い場合や色素沈着が強い患者にはブリモニジンやROCK阻害薬が代替選択肢
- **循環不全型NTG(夜間低血圧、冷え症など)**ではブリモニジンが第一選択になることも
まとめ
強度近視緑内障における治療戦略は、「低眼圧目標の設定(16mmHg以下)」と「点眼薬の多剤併用による段階的アプローチ」が重要。
特に日本人ではNTG型が多く、PG製剤を中心に、副作用に応じてブリモニジンやROCK阻害薬などを柔軟に組み合わせる必要があります。
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