線維柱帯切除後の有水晶体眼で起こり得るCME ― オミデネパグ点眼との関連
① 背景
緑内障治療の中心には「眼圧を下げる薬」があります。その代表がプロスタグランジン関連薬(PGA)で、1日1回の点眼で強力な眼圧下降効果を示します。しかし長期使用で「まぶたの脂肪が減って顔つきが変わる」「将来の手術成功率が下がる」などの副作用も知られています。
最近登場したオミデネパグ イソプロピル(OMDI)(注;商品名「エイベリス点眼液0.002%(Eyvellis))は、従来のPGAと異なりEP2受容体に作用する新しいタイプの点眼薬です。この薬は眼圧を十分下げながら、脂肪萎縮を起こしにくいとされ、期待を集めています。
一方で、黄斑に水がたまる「嚢胞様黄斑浮腫(CME)」という副作用のリスクが報告されています。これまでは「人工水晶体眼(偽水晶体眼)や水晶体のない眼(無水晶体眼)で起こりやすい」とされてきました。では、天然の水晶体が残っている「有水晶体眼」ではどうなのでしょうか?
② 研究の目的
台湾の研究チームは、「有水晶体眼でも、特に線維柱帯切除術を受けた人において、OMDI使用後にCMEが起こる可能性があるのか」を調べました。
③ 方法
2023年3月から2024年3月までに三次医療センターでOMDIを処方された患者836人を対象に、診療録を振り返る形で調査を行いました。その中から、OCT(光干渉断層計)画像や視力の推移を詳しく確認し、CMEの有無や経過を追いました。
④ 結果
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対象患者 836人中、線維柱帯切除術の既往がある人は86人。
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このうち6人(8眼、有水晶体眼)にCMEが発症。発症時期は点眼開始から6〜11か月後でした。
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発症年齢は41〜61歳(中央値52.5歳)。
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視力は0〜3行程度低下しましたが、全例で回復が確認されました。
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3眼は非ステロイド点眼で改善
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2眼は全身のステロイドが必要
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3眼はOMDIを中止するだけで改善
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回復までの日数は28〜91日。観察期間(最大12か月)で再発はありませんでした。
⑤ 結論
この研究から、有水晶体眼でも「線維柱帯切除術の既往がある場合」、OMDI使用後にCMEが起こることが明らかになりました。これまで「人工水晶体の人だけがリスク」と考えられていたCMEが、有水晶体の人にも起こり得る点は臨床的に重要です。
つまり、緑内障手術歴のある患者にOMDIを使用する際には、CME発症のリスクを念頭に置き、視力低下やOCT変化を注意深くフォローする必要があります。今回の報告は比較的少数例ではありますが、「OMDI=安全」とは言えないことを示した重要な研究です。今後さらに大規模な研究でリスク因子の解明が期待されます。
清澤のコメント
ご質問の通り、「人工水晶体眼でなくても、線維柱帯切除術を受けた有水晶体眼でCMEが起こり得る」というのが本研究の要点です。今後の治療選択やフォローの参考になる報告と思います。
出典
Chen M, Hwang DK, Liu CJL, et al. Prostaglandin EP2 Receptor Agonist and Cystoid Macular Edema in Phakic Eyes After Trabeculectomy. JAMA Ophthalmol. 2025;143(9):770-775. doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.2490
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