緑内障

[No.763] OCTA を活用する:平野佳男・小椋祐一郎先生の解説論文紹介

OCTA を活用する:平野佳男・小椋祐一郎の解説論文紹介

清澤のコメント:OCTA を活用するという新しい解説が日本の眼科に掲載された。日々の臨床応用に役立ちそうなので、その要点メモを採録してみる。私は、緑内障論文作成にはOCT乳頭評価が必要と考え、極早い時期にキャノンのポーランド製OCTを買い、その後2度トプコンの機材を入れ替えた。移転開業で現在の機械は4代目である。光のドップラーの反射を捉えて表層の形状が見える事までは夢想できたが、組織内の微細構造が見える立体的な生体顕微鏡的なものに成長し、血管造影機能まで持つようになることは想像もできなかった。せめて現在の機械の特性を理解して、現用機を十分に使いこなしたいものだ。

 

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〔要約〕 光干渉断層血管撮影(optical coherence tomography angiography: OCTA)は, OCTの技術を応用し,造影剤を使用することな く網脈絡膜の血管構造を三次元構築する新しい技 術である。2014 年の登場以降,数多くの研究報告より新たな知見の発見とともに課題も浮き彫り となってきた。2018年に保険収載されたこともあり,臨床研究の枠を超え急速に日常診療に普及しつつあるが,読影など注意すべき点も多い。OCTOCTAの基本的な原理と最新の知見について概説する。

 

はじめに: 光干渉断層計(OCT)は,2008年には保険収載され、一気に普及した。光干渉断層血管撮影(OCT angiography: OCTA)は,造影剤を用いず,非侵襲的に血流情報を画像化する。さらに,網脈絡膜の各層に合わせてスライスすし,血管構造を画像化する新しい技術である。2018年保険収載。OCT 技術進化と OCTA の総説。

OCT の進化

  • OCTの開発: Huangらのグループは,Aスキャンを横へずらして連続スキャンすることで網膜の断層画像を描出することに成功し,1991年に報告した。1996年に初めてOCT商品化。光波干渉を実空間(時間領域)で行うタイムドメイン方式のOCT で、スキャン速度は遅かった。
  • フーリエドメイン OCT2006年に,フーリエドメイン方式が採用された。フーリエドメイン方式は,光波の干渉をフーリエ空間(周波数 領域または波長領域)で行う検出技術で,深さと反射強度の情報が取得できて高速化した。フーリエドメイン方式はタイムドメイン方式と比べて,100 倍以上高速で,信号強度 も数十倍高く,性能は飛躍的に向上。フーリエドメインOCT には,広帯域光源と分光器を用いて検出するスペクトラルドメインOCT spectral-domain OCT: SD-OCT)と,光源の発信波長を高速に変化させデータを取得する波長掃引型(スウェプトソース OCT)(swept-source OCT: SS-OCT)とがあるSD-OCT では,高分解能が実現でき、SS-OCTよりも優れている。しかし,脈絡膜の観察には不向き。そこで、enhanced depth imaging法が報告された。一方SS-OCTは,SD-OCTより高速化が可能で,深さによる信号低下が少なく、より高い深達性を持つ。
  • OCT の画質を決めるもの1)分解能OCTBスキャンの画質を決める因子としてOCT装置の分解能がある。OCTのスキャン画像では, 光軸方向とプローブの横方向の二つの走査を必要とする。OCTの空間分解能は光軸方向の深さ分解能と横方向の分解能で決まる。タイムドメインOCTでは深さ分解能が10- 15μm程度であったのに対し,フーリエドメインOCTでは 3- 5 μm程度を実現し,外境界膜,ellipsoid zoneinterdigitation zone も 描出可能になった。深さ分解能は SD-OCT SS-OCT よりも優れる。補償光学(adaptive optics: AO)を応用すると,横方向の分解能が向上する。  

2) スペックルノイズ  分解能に匹敵してBスキャン画像の解像度に関与する因子にスペックルノイズ(粒状斑点)がある。 加算平均 することでスペックルノイズが除去され,より高解像度の画像を取得することができる。

現在では加算平均を用いたスペックルノイズ除去機能が多くの商用機で採用されている。

4.三次元撮影  フーリエドメイン OCT による高速化のため三次元撮影が可能になった。Cubeスキャンあるいは volume スキャンとも呼ばれるが,ある一定の範囲をB スキャンで連続的に撮影し,立体的に観察する。黄斑部や視神経乳頭周囲で行われる。このメリットは, 病変の見落としの軽減である。また cubeスキャンで得られた立方体を,任意の層(slab)で眼底に平行な面で切ると,擬似的に二次元の眼底画像を得ることができる(C スキャン,en face OCT 画像)が,この技術はOCTAにも用いられる。

 

 ⅡOCTA の登場:

1OCTA の開発  OCTA は,非侵襲的に血管構造を画像化したもの。2014 年 に Optovue社より商品化された。OCTA の原理は,フーリエドメイン OCT で同一部位を複数回スキャンして,動的シグナルを画像化する。網脈絡膜での動的シグナルは通常血管内の血液のみなので,血流の動的シグナルを抽出することで血管像を構築することができる。さらにen face OCT 画像作成の技術を応用し,任意の slab を切り出すことで, 血管網を三次元的に分離して解析することが可能。また造影剤不要,検査時間が短いなど多くの利点があり,20184月には保険収載された。急速に進化しつつある。

2OCTA で見えるもの,できること  

1) 血管網の三次元化 :最大のアドバンテージは,血管網の三次元化。三次元撮影にはセグメンテーションで en face 画像作成が必要。網膜浮腫,網膜剥離などはセグメンテーションエラーの原因となる。視神経乳頭中 心のスキャンでは,放射状乳頭周囲毛細血管(radial peripapillary capillary: RPC)も描出される。フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では,表層毛細血管網(superficial vascular plexus: SVP)画像は得られるが,RPCや深層毛細血管網(deep capillary plexus: DCP)は明瞭には写らなかったOCTAは,RPC DCPも描出できる。RPC の評価は緑内障診療で注目されるDCPの灌流状態が視力や黄斑浮腫と関連することが糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症で報告された。実際の網膜には中間層毛細血管網(intermediate capillary plexus: ICP)もあり,RPCSVPICPDCP の四層である。

2) 新生血管の描出新生血管などの異常血管網の撮影が可能である。蛍光眼底造影検査では通常病的新生血管は蛍光漏出を伴うが,OCTA ではそれがない。OCTA は画角が狭い問題もあったが, 徐々に広画角化が実現した。脈絡膜新生血管の描出,治療効果の判定などにも期待される。  

3) 無灌流領域,中心窩無血管域の評価:虚血性疾患における毛細血管密度の低下,網膜無灌流領域の拡大,中心窩無血管域の拡大の報告。これらの因子が,視力,VEGF阻害薬への反応性,病期,周辺部を含めた網膜全体の虚血などに関連する。  

4) その他の有用性  OCTA は非侵襲的で簡便。造影剤が 使えない人(造影剤アレルギー,肝腎機能低下例, 妊婦,小児など)にも使える。また頻回撮影も可能。

 

3OCTA で見えないもの,注意すべきこと  

1) 蛍光漏出,蛍光貯留,組織染はわからない:血漿成分に由来する所見である蛍光漏出,蛍光貯留,組織染などはわからない。

2) アーチファクト;  

 モーションアーチファクト :固視微動,瞬目などによって生じるアーチファ クトのこと。現在の機種にはアイトラッキング機能が付いており,スキャンスピードも速くなっ ているため以前よりは問題にならないが,限界がある。

 シャドーイングOCT 信号の減衰は,角膜混濁,白内障, 硝子体混濁,出血,硬性白斑,軟性白斑などの異常病変があるとその後方は黒く描出され、血流がないかのようになる。正常眼でも網膜色素上皮によるOCT信号の急速な減衰のため,脈絡膜血管の信号検出には限界があるが,SS-OCTA は波長の高侵達性と信号減衰が少ないことから有利。   プロジェクションアーチファクトOCT では血管によって入射光が吸収され減衰し,後方はシャドーとなる。血管組織とともにその血管のシャドーに当たる部分の OCT 信号も変化する。上層の血管の後方に偽りの血流像が描出される現象のことをプロジェクションアーチファクトと呼ぶ。 多くの機種にそれを除去する機能がある。

 セグメンテーションエラー  En face 画像の作成,評価においては適切なセグメンテーションが重要である。特に重度の網膜浮腫,網膜剥離,網膜色素上皮剥離,高度近視による眼球の湾曲などには注意が必要。

4OCTA の課題克服  

1) 広画角化  OCTA は画角の狭さが課題だった。スキャンスピードの高速化など OCTAのハードウェア進歩で広画角化が実現した。

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