神経眼科

[No.1792] 失文法を持つ失語症患者診療のポイント:寄稿 金野竜太

清澤のコメント:神経眼科医と言っても出津語についてはブローカ失語とウェルニッケ失語程度しか知りませんでした。「失文法を持つ失語症患者診療のポイント:寄稿 金野竜太」という記事が2023.06.19 週刊医学界新聞:第3522号に出ていましたので抜粋紹介いたします。⇒元の記事リンク 

 脳梗塞などの脳の病気によって「話す」や「理解する」といった言語機能が障害された状態を失語症と呼びます。有名なものとしてブローカ失語(主に話すことができない)やウェルニッケ失語(主に言葉を理解することができない)などがあります。今回は失語症の症状の1つである「失文法」について解説します

FAQ 1:失文法の患者にはどのような症状が現れるのでしょうか。

 失文法とは文法機能の障害であり,ブローカ失語の患者で観察されることが多いとされる言語症状です。失文法の患者では,格助詞などの機能語の使用や複雑な文構造の作成が困難になります。日本語を例にとると,発話時の格助詞(が,を,に,など)の欠如や誤用が起こります。このような言語産生における症状は発話だけでなく,書字においてもみられることがあります。また,文法機能が障害されると文の理解にも影響を及ぼすことがあり,統語理解障害と呼ばれます。統語は「単語と単語をつなぐ規則」と考えるとわかりやすいです。

Answer

失文法とは文法機能の障害であり,発話面では助詞の欠如や電文体発話などがみられます。また理解面では,単純な構造の文理解は保たれるものの複雑な構造の文理解が障害される症状が起こります。 

FAQ 2:失文法が疑われる失語症患者へはどのようにアプローチすればいいでしょうか。

 失語症は,脳血管障害・脳外傷・脳腫瘍・神経変性疾患などで発症することが多く,まずは原疾患に対して適切に診療を行うことが大切です。その上で,言語機能評価と言語リハビリテーションを行います。

 これまでのところ,標準化された文法機能の検査法はありませんが,研究レベルで用いられる検査課題として,主語と目的語が入れ替え可能な文(例:ライオンがトラを追いかける)と絵を提示し,絵と文の内容が合っているかを判断するものなどがあります。そして,言語機能評価や治療には専門的な知識と技能を必要とするため,言語聴覚士や作業療法士など多職種との連携が重要となります。

Answer:原疾患に対して適切に診療を行い,その上で患者の言語機能をよく観察し,介入することが重要です。失文法以外の要因でも文理解障害は起こるため,文法機能を個別に評価することが必要です。多職種カンファレンスにより患者の状態を随時共有し,介入方法を検討しましょう。

FAQ 3:どのような病変で失文法は発症するのでしょうか。

 失文法はブローカ失語の患者で観察されることが多く,発症には左下前頭回弁蓋部や三角部と呼ばれる脳領域が関与しています。したがって,左前頭葉の脳血管障害や脳外傷,脳腫瘍などの患者で観察されることが多いとされています。しかし,この領域が障害されても失文法が発症しない場合もある上,小脳など他の脳領域の病変でも失文法を発症することはあります。また,脳血管障害・脳外傷・脳腫瘍などの占拠性病変だけではなく,前頭側頭型認知症などの神経変性疾患に伴い失文法が起こることも知られています。原発性進行性失語(発症早期に言語症状が先行する神経変性疾患)の中には,文法機能の障害を特徴とする症候群(非流暢/失文法型原発性進行性失語)も存在します。

 失文法の発症メカニズムについては議論が続いています。私の研究チームでは,文法処理に関与する脳内ネットワークの機能低下が失文法の発症に関連する可能性を示した論文を発表しました。文法処理には左前頭葉だけではなく,右大脳半球や小脳を含んだ脳領域が関与しており,これらの脳領域が少なくとも3つの脳内ネットワークを形成しています(図2)。脳内ネットワークの共同作業により文法処理が営まれ,このネットワークの機能低下が失文法の発症に関与していると推測されます。文法処理に関与する脳内ネットワークの詳細についてはまだ研究の余地が残っており,今後の神経言語学の重要課題といえます。

2 文法処理に関与すると考えられる脳内ネットワーク(『わかる! 使える! 日本語の文法障害の臨床』,p135より一部改変して転載)

3つの脳内ネットワークの神経結合を示す。文法処理においては左前頭葉の左下前頭回弁蓋部/三角部と呼ばれる脳領域が重要であるが,右大脳半球や小脳などの他の脳領域も関与していると考えられている。

Answer:左下前頭回弁蓋部と呼ばれる脳領域が失文法の発症に関与すると考えられています。また,左前頭葉,右大脳半球,小脳を含んだ脳領域が形成する脳内ネットワークによって文法処理が営まれ,このネットワーク機能の低下が失文法に関与する可能性があります。このネットワークの詳細の解明は今後の神経言語学の重要課題です。

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