神経眼科

[No.253] 眼痛:清澤源弘、小町祐子(眼科臨時増刊記事 再録)

清澤のコメント追記:2018年9月30日の10146:眼痛:清澤源弘、小町祐子(眼科臨時増刊記事)採録です。

眼科医清澤のコメント:5月連休ごろに仕上げ、ほぼ同じ内容で心療眼科研究会でお話しをした記事です。臨時増刊に掲載になり、送られてきました。 痛みを3つに大きく分けるのが最新の疼痛論での共通認識です。眼痛を考える道筋としてご笑覧ください。眼科医師向けの依頼記事です。内容は全体に、良さそうな増刊号になっています。税別8500円、お買い求めください。

眼痛:清澤源弘、小町祐子(眼科臨時増刊記事):

(主訴と所見から見た眼科common disease 金原出版)

眼科 60.1041-1045、2018

クリニカルポイント
 その眼痛は侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛のいずれか。
 侵害受容性疼痛なら、その疼痛は外眼部、眼球、眼窩など眼科で対応すべきものか。それとも、脳外科、脳神経内科、あるいは耳鼻科など他科に委ねるべきものか。
 神経障害性疼痛や心因性疼痛なら別の治療アプローチを要す。

はじめに
眼球やその周囲は神経や血管が豊富である。したがって、なんらかの侵襲を受ければ患者は眼痛を感じることになる。患者が眼周囲の痛みを訴えて来院した場合、様々な疾患が隠れていることを考慮する。はじめに疼痛とは何かを簡単に述べたのち、各病態について、眼球および眼周囲に痛みを生ずる原因があるのか、あるいは隣接他科に治療を委ねるべきものかを分けて診断と治療を解説する。
疼痛の定義と分類
疼痛は身体に危険を知らせるシグナルであり、人間にとって重要な感覚である。しかし、痛みが慢性的に続くと生活の質の低下をまねく。国際疼痛学会では疼痛を、『実際に何らかの組織損傷が起こったとき、あるいは組織損傷が起こりそうなとき、あるいはそのような損傷の際に表現されるような、不快な感覚体験および情動体験』と定義している1)。疼痛は、その原因により、『侵害受容性疼痛』、『神経障害性疼痛』、『心因性疼痛』の3つに大別される。(図1)

1侵害受容性疼痛 nociceptive pain
侵害受容性疼痛は、外傷や感染による炎症や内外からの刺激によって痛みを感ずる侵害受容器が刺激されて起こる。侵害受容性疼痛は、体の各部からの刺激が電気信号となって神経を伝わり、その過程で発生する。ほとんどが急性の痛みで、一般的に非ステロイド鎮痛薬が効き易い特徴がある。この痛みは体に害が及んでいることを知らせるサインであり、人間にとって必要な痛みである。侵害受容性疼痛の原因となる刺激には、①外傷による炎症、②機械的刺激、③温度刺激,④化学的刺激、⑤細菌侵入などが含まれる。
2 神経障害性疼痛:Neuropathic pain 
神経障害性疼痛は、神経自体の圧迫や、なんらかの原因による神経伝達の障害から起こる痛みである。慢性的疼痛や難治性疼痛に進行しやすい。代表的なものには、帯状疱疹後の神経痛、ドライアイ症候群に伴う疼痛の一部などが含まれる。神経障害性疼痛には非ステロイド鎮痛薬が効きづらい。そもそも、末梢神経が侵されれば知覚中枢への痛みのシグナル伝搬は減少するはずである。しかるに、神経障害性疼痛の発症では痛みの感覚は増強する。その機序は、脊髄後角でのグルタメート/NMDA受容体介在感作やGABA作動性およびグリシン作動性コントロールの消失に伴う脱抑制などを介した中枢感作(central sensitization)が想定されている。
3 心因性疼痛:psychogenic pain
心因性疼痛は、精神的ストレスなど心理社会的要因によって起きる疼痛である。身体表現性障害に代わって身体症状症が用いられる。身体症状症は、①苦痛や生活への支障がある身体症状があること、②身体症状や健康に関する極端な思考・感情・行動、の2つを満たす病態が広く含まれる。
眼痛を訴えてきた場合、まず、侵害受容性疼痛を考えて原因を検索する。次に、疾患によっては眼科領域であっても神経障害性疼痛や心因性疼痛の可能性を考える。さらに、頭蓋内など隣接他科に治療を依頼しなくてはならない疾患もある。治療を依頼するにしても、考えられる疾患を明確にして紹介したい。

診断の進め方と治療
眼痛を訴える原因は多岐に亘るが、主訴として眼痛を訴えて来院するものを中心に、それぞれの部位別に診断の進め方と治療法を併記しながら論をすすめる。(図2)
1  眼瞼や皮膚の痛み
〇三叉神経痛:三叉神経根が血管等に圧迫されると、知覚線維に過敏性を生じる。その状態で疼痛誘発領域からの知覚刺激が加わると、激しい痛みが神経支配領域に生ずる。突発的な電撃痛で持続時間は短い。顔面への接触、摂食などを契機に発生し、高齢女性に多い。通常は一側性で三叉神経第2枝に多い。頬、口周囲、顎に多く、眼窩痛のこともある。必要に応じて画像診断を行う。治療にはカルバマゼピン投与が有効で、原因が血管圧迫の場合には、頭蓋内微小血管減圧術も考慮される。
〇帯状疱疹:片側の眼瞼や眼上方の皮膚に明らかな痛みを訴える場合には帯状疱疹も疑う。僅かな発赤や水疱が見られることがある。蓄積疲労、精神的ショックなどを誘因とすることも多い。帯状疱疹後疼痛では知覚過敏が残り、不快な疼痛が続く。
2 機能的眼痛
〇眼精疲労:遠視や間欠性外斜視、老視などの患者が読書やPC業務といった近業を継続的に行うことで起こる眼痛である。渇き目や目の疲れ目、重感、流涙、視蒙、羞明などを訴える。器質的には著変が無いが調節に問題がある場合には、適切な近方用または遠近両用眼鏡を処方する。間欠性外斜視や輻輳不全が原因なら、基底内方のプリズム眼鏡が有効な時もある。

3 眼周囲および視器障害による眼痛
〇霰粒腫:涙液油層を分泌するマイボーム腺は上下瞼縁に存在する。その無菌的炎症が霰粒腫である。霰粒腫は眼痛を主訴としないことがほとんどであるが、不快感と眼周囲疼痛を訴えてくることがある。炎症により眼表面は乾燥し、熱感、掻痒感、流涙そして充血の原因にもなる。清潔な油性涙液産生が中断され涙液層は不安定になる。マイボーム腺の機能回復にはリッドハイジーン指導が有力である。数分間の温罨法の後、眼瞼縁の眼瞼用洗剤による清拭、そして温水での洗浄の指導をする。
〇結膜炎:通常の結膜炎ではそれほどの眼痛は訴えないが、春季カタルなど慢性重症結膜炎では石垣状乳頭増殖を伴い、角膜潰瘍などを併発することがある。また、アデノウイルス感染による急性の流行性角結膜炎では、相当な眼痛を訴えるケースが見られる。炎症消退を図る。
〇上強膜炎・強膜炎:上強膜炎や強膜炎では充血や眼痛が強いことが多い。炎症が深いと強膜軟化症を伴って強膜菲薄化を見ることがある。後部強膜炎では結膜充血は弱くても眼痛が著しいことがある。炎症性血液変化が見られることもある。その際はステロイド投与も検討する。
〇角膜疾患:角膜異物、角膜びらん、角膜上皮剥奪はいずれも疼痛を伴う。それらはフルオレセイン染色で見分けられる。眼表面の疼痛では真っ先にこれらを除外する。疼痛の原因が不適切なコンタクトレンズ装用に依る場合は装用を中止させ、レンズ装用法の問題点を究明する。感染が疑われる場合には細菌培養やアデノウイルスのチェックも行う。広い抗菌スペクトルの抗生薬点眼を処方し、比較的短い間隔での再診とする。眼瞼との摩擦による疼痛も多いので、治療として新たに一日交換レンズを乗せることもある。
 〇ドライアイ:ドライアイは成人の10~15%を侵す。その症状は頭痛と似ていることがある。角膜表面は三叉神経の分布が多く、乾燥が疼痛を起こす。症状には熱感、視蒙、羞明、そして単眼性複視がある。涙液成分にあたるヒアルロン酸や涙液分泌を増やすジクアソホル、ムチン産生を促進するレバミピド点眼液の他、試験的に涙小点閉鎖による涙液流出の逓減を試みることも有効である。ドライアイではびまん性表層角膜炎を伴う場合とそれほど強い角膜変化を伴わない場合がある。疼痛は、涙液の分泌低下によっても、涙液層不安定化によっても生じ得る。シルマーテストによる涙液量、角膜表面メニスカスの厚さ、涙液層破壊時間の短縮を杓子定規に捉えるとドライアイを見逃す。角膜知覚線維に対する慢性的障害による神経障害性疼痛も注目されている。
〇虹彩炎、ぶどう膜炎:虹彩炎やぶどう膜炎は毛様充血を伴い、毛様痛を訴える。眼痛、光の笠、視蒙、充血を伴う。細隙灯顕微鏡による前房細胞と癒着を除外する。角膜後面沈着物や前房細胞などから肉芽腫性ぶどう膜炎と非肉芽腫性ぶどう膜炎を峻別し、血液検査で原因疾患を探す。
〇緑内障:急性閉塞隅角緑内障や血管新生緑内障では急激な眼圧上昇で眼痛を訴える。著明な眼圧上昇では視蒙、角膜混濁、結膜充血等がみられる。悪心嘔吐を伴い、急性腹症や片頭痛と似ることもある。閉塞隅角緑内障であればレーザー虹彩切除術か水晶体摘出術が必要であるため、眼圧を至急下げ、手術施設へ転送する。
〇前房出血:眼球打撲による外傷で隅角解離を生じた場合、前房下方に血液が貯まる。網膜剥離合併も考える。眼圧は必ずしも高くないが、角膜血染症での角膜内皮損傷や眼圧上昇の可能性もあり、手術可能な施設への紹介を検討する。

4  眼窩周辺に原因のある眼痛
〇視神経炎と視神経周囲炎:視力低下と中心暗点を訴え、眼球運動痛も特徴的である。造影MRIでは視神経の肥大と造影増強効果が見られる。視神経炎では多発性硬化症を示唆する脱随巣にも注目する。
〇巨細胞性動脈炎:虚血性視神経炎を誘発する巨細胞性動脈炎では中心暗点ないし上または下の水平性半盲とともに眼痛や頭痛を訴えることが多い。微熱や顎跛行も特徴的で、赤沈は亢進する。高齢女性に多く、反対眼へ波及も考え早期にステロイドパルスを行う。側頭動脈生検も考える。
〇眼窩筋炎、非特異的眼窩炎症:眼球後方の軟部組織に炎症を来す疾患には血清IgG4抗体の高いミクリクツ病が含まれる。画像診断と血液炎症性反応を診断の参考にする。治療は大量ステロイドを用い、それを漸減する。
〇眼窩腫瘍、血管奇形:眼窩腫瘍が疼痛を起こすこともある。殊に眼窩静脈瘤では出血に伴い眼球突出と疼痛を訴える。
〇眼窩膿瘍、眼窩蜂窩織炎:先行する副鼻腔炎があり、貯留物が眼窩壁を破り骨膜下に膿瘍を作る。広がれば眼窩蜂窩織炎となる。激烈な炎症で視機能を脅かす。耳鼻科での早急な排膿処置を要する。
〇甲状腺眼症状:甲状腺機能異常を伴い外眼筋に肥大を示す疾患である。甲状腺機能の亢進を示す場合と、抗甲状腺抗体のみを示す常甲状腺状態のものに分ける。いずれも外眼筋の肥大が強く、そのための疼痛を訴える症例がある。特に眼窩後部で眼筋肥大が強く筋紡錘が視神経を絞扼して視神経障害を示す場合には緊急手術が必要で、トリアムシノロン球後注射、ステロイド点滴、放射線照射等を行う。

5 頭蓋内の疾患
〇微小血管性眼球運動神経麻痺(糖尿病性眼筋麻痺を含む:糖尿病や高血圧により神経に伴走する微小血管の循環障害を原因とした眼筋麻痺では、突発性複視とともに疼痛を訴えるケースがある。動眼神経、滑車神経、または外転神経が障害される。虚血性なら疼痛は早々に解消し、3カ月以内に眼筋麻痺も回復する事が多い。循環障害が原因の動眼神経麻痺では瞳孔機能は通常維持される。異常神経支配が見られたら動脈瘤や腫瘍など圧迫性疾患を考える。
〇下垂体腺腫と下垂体卒中:下垂体線腫の多くは疼痛を訴えないが、腫瘍内出血を来すと下垂体卒中と呼ばれる激烈な頭痛と著しいホルモン失調を示す。頭痛を理由として緊急MRIを撮影し、血清イオン濃度なども検討する。下垂体異常があれば脳外科に紹介する。
〇頸動脈乖離と脳動脈瘤:頸動脈が内層と外層に解離し、内頚動脈血流が途絶するのが頸動脈乖離である。関連痛として眼痛を訴えることがある。動脈瘤は伸展されると動脈性血管痛を感じ、破裂してくも膜下出血になればくも膜の刺激痛に変わる。画像検査で動脈瘤が偶発的に見つかれば、対応は脳外科と相談する。直径4㎜以下の小さい動脈瘤では経過観察とされることが多い。
〇肥厚性硬膜炎:肥厚性硬膜炎は、硬膜の炎症性肥厚により、頭痛、うっ血乳頭、脳神経麻痺等の症状を呈する疾患である。特発性と続発性に分類される。続発性の場合、ANCA関連血管炎、ウェゲナー肉芽腫やサルコイドーシスなどの炎症性疾患、細菌、真菌、結核などの感染を原因として考える。IgG4関連疾患も考慮する。治療にはステロイドを使用する。
〇トローザハント(Tolosa-Hunt)症候群:有痛性眼筋麻痺と呼ばれ、非特異的眼窩炎症と類似の炎症性肉芽腫が海綿状脈洞付近に生ずる。診断的治療としてステロイドの投与も行われるが、治療可能な他疾患の除外が必要である。
〇海綿静脈洞症候群:この診断名は動脈瘤や腫瘍を含めた病巣が海綿静脈洞にあり、その中を貫通する神経に障害を与える病態の総称である。海綿静脈洞には動眼神経、滑車神経、三叉神経、外転神経が走行しているため、それらが海綿静脈洞内で傷害を受ける。
内頚動脈海綿静脈洞瘻(CCF):内頚動脈の中の動脈血が瘻孔を介して海綿静脈洞に流入し、上眼窩静脈から外頸静脈系に流出するのが典型的病像である。外傷に伴う高流量型と、静かな低流量型に分けられる。多くは低流量型で、発症後数ヶ月で自然退縮する事も多い。治療は血液外科にて血管内治療が行われる。
〇偏頭痛:拍動性の痛みであることが多い。血管運動神経が活発に働き、その後血管が拡張する痛みを訴える。発作を頓挫させる薬剤を投与する。予防する薬剤もある。
〇群発頭痛:左右片側の眼周囲や側頭部に1時間ほど続く激痛を生ずるもので、同側に眼充血、流涙、眼瞼浮腫、紅潮、縮瞳、眼瞼下垂等を伴う。

おわりに
眼周囲の疼痛を考える場合、その疼痛が神経受容性疼痛なのか、神経障害性疼痛なのか、あるいは心因性疼痛なのかを考えてみる。一方、その原因病巣は眼科で治療すべき物か、脳外科、脳神経内科、耳鼻科、膠原病内科、精神科のいずれかで治療する物かを考える。その組み合わせにおいて、その患者にとって最善の主治医がどこにいるかがわかる筈である。

文献
1) 国際疼痛学会:痛み用語2011年度版, 2011.
2) Waldman CW, Waldman SD, Waldman RA. Pain of ocular and periocular origin. Med Clin North Am. 97: 293-307. 2013.
3) Lee AG, Al-Zubidi N, Beaver HA, Brazis PW. An update on eye pain for the neurologist. Neurol Clin. 32:489-505. 2014.

 

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