神経眼科

[No.2968] 「第 111 回神経眼科勉強会」(東京地区)が10月9日行われました

東京都内の各大学や病院などで神経眼科の診療に従事している医師が集まる神経眼科診療医が対象の「第 111 回神経眼科勉強会」が 2024(令和 6)年 10 月9日(水)18:30~20:00 に帝京大学板橋キャンパスの 臨床大講堂で開催されました。担当校は 帝京大学医学部眼科。演者名と所属を省略して演題とその予備知識を記載します。

 

 プログラム

演題1 「サルコイドーシスによる片眼性乳頭部肉芽腫を呈した症例」

予備知識:サルコイドーシスによる乳頭部肉芽腫は、全身性の炎症疾患であるサルコイドーシスが視神経乳頭に肉芽腫を形成することで発生します。この疾患は主に肺、皮膚、リンパ節に影響を与えますが、眼にも病変を引き起こすことがあり、ぶどう膜炎や視神経炎などが含まれます。視神経乳頭に肉芽腫が生じると、視力低下や視野欠損、乳頭浮腫がみられ、眼底検査やOCT、蛍光眼底造影(FA)で確認可能です。診断には、画像診断とともに血液検査でアンジオテンシン変換酵素(ACE)やリゾチームの上昇が参考になります。治療としては、ステロイド療法が基本であり、全身または局所にステロイドを投与して炎症を抑えます。ステロイドが効果を示さない場合や副作用が問題となる場合には、メトトレキサートやアザチオプリンなどの免疫抑制剤が使用されることもあります。軽度の場合は経過観察で十分ですが、視機能の維持には早期診断と治療が重要です。適切な治療により多くのケースで改善が期待できますが、重症例では視力が完全に回復しないこともあります。視神経障害は不可逆的な視覚障害をもたらすため、迅速な対応が患者の生活の質を保つ上で不可欠です。

 

演題2 「両眼性乳頭腫脹から虚血性視神経症を呈したと考えられた症例」

予備知識:両眼性乳頭腫脹自体は虚血性視神経症の直接の原因ではありませんが、間接的に関連する可能性があります。両眼性乳頭腫脹は主に脳圧の上昇によって生じ、視神経に圧力をかけて視力障害を引き起こすことがあります。この圧迫が視神経の血流を障害し、虚血性視神経症を誘発する可能性があります。特に特発性頭蓋内圧亢進症や非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)の患者では、視神経乳頭が狭い場合に血流不足が生じやすく、虚血性視神経症を発症するリスクが高まることがあります。

聴講後の印象:視神経低形成+糖尿病視神経障害+前部虚血性視神経症:という説明に落ち着きそうでした。

 

演題3 「随意的な眼球突出が可能な若年女性が呈した視神経萎縮、 視力低下の1例」

予備知識:随意的な眼球突出が可能な若年女性に視神経萎縮が認められる場合、眼科静脈瘤orbital varix)は重要な鑑別診断の一つです。眼科静脈瘤は、眼窩内の静脈が異常に拡張し、血流の変動によって眼球突出が一時的に増強する状態です。特に、咳や力み、前屈などの際に突出が顕著になることが特徴です。このような一時的な眼球突出が患者の意思でコントロールできる場合、静脈瘤の存在を疑うべきです。視神経萎縮は、静脈瘤による長期的な視神経の圧迫や血流不全が原因となり、結果として視力低下や視野異常が生じる可能性があります。静脈瘤の成長や眼窩内での位置により、視神経が直接圧迫されると、視神経へのダメージが進行し萎縮が発生します。

聴講後の感想:これはvoluntary globe luxation 随意的眼球脱臼でしょう。文献も見つかりました。下記記事をご覧ください。 

眼球を意図的に脱臼(globe luxation)させられる人がいます。

 

演題4 「ネコひっかき病による視神経乳頭腫脹を考えた症例」

基礎知識:ネコひっかき病による視神経乳頭腫脹は、Bartonella henselae という細菌によって引き起こされる感染症の一部として生じます。主にネコとの接触(特に引っかきや噛み傷)を通じて感染します。目に症状が出る場合、視神経乳頭が炎症を起こし、腫脹することがあります。これを視神経乳頭炎と呼びます。

患者は通常、片眼に視力低下、視野欠損、目の痛みなどの症状を訴えます。また、全身症状として発熱やリンパ節の腫れもみられることがあります。

診断は、血液検査でBartonella抗体の上昇を確認することで行います。治療には抗菌薬が用いられ、適切な治療を受けることで多くの場合、視神経乳頭腫脹は改善し、視力も回復しますが、重症例では視機能の回復が不完全なこともあります。

聴講後の印象:当初は原田病を疑ったが、網膜星ぼう状白斑で「ネコひっかき病」に考えが至り、血液のバルトネラ抗体陽性を見付けた。テトラサイクリン、マクロライド(ジスロマック)、アミノグリコシドが効くそうです。九州や四国に多いとのこと。(よく知られる中脳背側症候群のことではない)パリノー症候群という言葉もあったらしいです。

追記:バルトネラ感染症は、パリノー眼腺症候群と関連することがあります。この症候群は、目とその近くのリンパ節に影響を及ぼす稀な状態です。これは、猫ひっかき病の原因となる細菌であるBartonella henselaeによって引き起こされることが多いです。

バルトネラ感染症とパリノー症候群についての重要なポイント:

  • パリノー眼腺症候群:この状態は、結膜炎(目の炎症)、耳の近くのリンパ節の腫れ、時には発熱などの症状を呈します。
  • 感染経路:この細菌は、感染した猫からのひっかき傷や咬み傷、または猫の唾液との接触を通じて伝染します。
  • 症状:目の炎症やリンパ節の腫れのほか、全身の倦怠感、発熱、頭痛などが見られることがあります。
  • 診断と治療:診断は通常、臨床症状に基づき、血清学的検査で確認されます。治療には、アジスロマイシンやドキシサイクリンなどの抗生物質が一般的に使用されます。

 

 

演題5 「Harding 症候群を呈した母娘例」

予備知識:多発性硬化症(MS)とレーベル遺伝性視神経症(LHON)が同時に発症する状態を「ハーディング症候群(Harding’s syndrome)」と呼びます12。この名称は、これらの疾患の共存が偶然以上に頻繁に見られることから、故アニタ・ハーディング教授によって提唱されました1

ハーディング症候群の特徴:

眼症状は神経系の他の症状(運動失調や筋力低下など)と並行して現れるため、全身的な神経疾患としての評価が重要です。

しかしこれを敢えてハーディング症候群と呼ぶかどうかには意義もあるようです。

清澤のコメント:真島先生が以前研究したようにミトコンドリア11778変異は全ての遺伝子が均一に変化する訳ではなく、ヘテロプラス三―と呼ばれる正常と異常の混在が常にあり、90%以上のミトコンドリア異常が無いとレーベル病は発症しません。わずかでも遺伝子異常が有れば遺伝子検査は陽性とされるでしょうから、ミトコンドリア11778変異があったことがレーベル病の発症を示すわけではない事にも留意が必要でしょう。以前の共著論文です:Case Report J Neuroophthalmol1998 Jun;18(2):81-3. A family with Leber’s hereditary optic neuropathy with mitochondrial DNA heteroplasmy related to disease expression A TanakaM KiyosawaY MashimaT Tokoro

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