ビジュアルスノウ症候群の脳における変化を示したブレインという有力な雑誌に出ている論文です。患者さんのリクルートに私も参加させていただいた東京都健康長寿医療センターPET室での研究と同様に、「ポジトロン断層法で脳の糖代謝」を見る手法(これは、現在紹介を休止中)で行われていて、興味を惹かれました。20人の患者を正常対象群と比較しています。導入部で視覚症状:閃光幻視(Photopsia)、飛蚊症(Floaters)、ブルーフィールド内視現象(Blue Field Entoptic Phenomenon)、羞明(Photophobia)、夜間視力障害(Nyctalopia)のほかに、耳鳴り(Tinnitus)集中力の低下(Concentration Problems)、感覚過敏(Sensory Hyperexcitability)、倦怠感(Fatigue)の存在にも言及しています。
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ビジュアルスノウ症候群の構造的および機能的フットプリント
著者
クリストフ・J・シャンキン, ファルーク・H・マニヤール, デニス・E・チョウ, マイケル・エラー, ティル・シュプレンガー, ピーター・J・ゴーズビー
Brain, Volume 143, Issue 4, April 2020, Pages 1106–1113
DOI: https://doi.org/10.1093/brain/awaa053
発表日: 2020年3月24日
要約
視覚雪症候群(Visual Snow Syndrome, VSS)の患者は、持続的な広範な視覚障害に加え、耳鳴りや集中力の低下などの非視覚的な症状にも苦しんでいます。この疾患の病態生理には、視覚野の機能異常が関与している可能性がありますが、視覚系以外の影響についてはこれまで十分に調査されていません。本研究では、視覚雪症候群の視覚症状および非視覚症状に関連する脳の構造的・機能的変化を特定することを目的としました。
方法
VSSの患者群と年齢・性別を一致させた健常対照群を比較し、以下の手法を用いて脳の代謝および構造を分析しました。
- 18F-2-フルオロ-2-デオキシ-D-グルコースPET(FDG-PET)(各群 n=20):脳の代謝活性を評価
- ボクセルベースの形態計測(VBM)(各群 n=17):脳の灰白質体積を測定
結果
VSS患者では、右舌回と紡錘状回の接合部にある線条体外視覚野で代謝が亢進し、同部位の皮質体積も増加していました。一方、右上側頭回と左下頭頂小葉では代謝の低下が認められました。さらに、VSS患者では側頭葉および大脳辺縁系の灰白質体積が増加し、上側頭回の灰白質体積が減少していました。
考察
本研究の結果から、ビジュアルスノウ症候群は視覚連合皮質の異常と関連していることが示唆されました。しかし、脳の広範な領域にわたる構造的・機能的変化が確認されたことから、VSSは単なる視覚系の障害ではなく、より広範な脳機能の異常を伴う疾患である可能性が示されました。
背景と目的
視覚雪症候群(VSS)の患者は、**視覚雪(Visual Snowビジュアル スノウ)**と呼ばれる持続的な視覚障害に加え、以下のような追加の視覚症状を伴うことが多いとされています。
- 閃光幻視(Photopsia)
- 飛蚊症(Floaters)
- ブルーフィールド内視現象(Blue Field Entoptic Phenomenon)
- 羞明(Photophobia)
- 夜間視力障害(Nyctalopia)
VSSの病態生理は未だ十分に解明されていませんが、片頭痛(Migraine)との高い併存率や感覚処理の異常が報告されており、何らかの病態生理学的な共通点がある可能性が指摘されています(Schankin et al., 2014b; Goadsby et al., 2017)。また、最近の神経画像研究や電気生理学的研究では、視覚連合皮質レベルでの視覚情報処理の異常が示唆されています(Schankin et al., 2014b; Eren et al., 2018; Luna et al., 2018)。
さらに、多くのVSS患者は視覚症状だけでなく、以下のような非視覚症状も訴えています(Schankin et al., 2014a)。
- 耳鳴り(Tinnitus)
- 集中力の低下(Concentration Problems)
- 感覚過敏(Sensory Hyperexcitability)
- 倦怠感(Fatigue)
これらの症状は、聴覚系や大脳辺縁系など、視覚以外の脳領域が関与している可能性を示唆しています。
本研究の目的は、VSS患者の脳構造および脳機能の変化を、健常対照群と比較することにより、疾患の全体像を明らかにすることです。特に、視覚関連領域に加え、非視覚領域における構造的・機能的変化が存在するかどうかを検討しました。
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如何に関連する英文の動画を引用します。より詳しくは論文の本文をご覧ください。
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