神経眼科

[No.955] 心理療法的アプローチを用いて外来患者の本音を引き出す:インタビュー記事紹介

清澤のコメント:山田 宇以先生のインタビュー記事が2022.09.19 週刊医学界新聞:第3486号に出ており、興味を惹かれる内容ですので抄出して再録いたします。感情的共感と感情的共感を適宜使い合わせることを説いています。私にも共感できる内容です。当医院では臨床心理士のカウンセリング外来を用意していますが、この記事は医師自体がどう患者に対峙するかというお話です。

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心理療法的アプローチを用いて外来患者の本音を引き出す(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3486_02

 外来診療時にガイドラインで示される治療方針を患者に伝えると,すぐに受け入れてもらえる医師と,そうでない医師がいる――。このようなコミュニケーションの行き違いは,医師と患者との間で信頼関係が十分に構築できていないばかりに起こってしまう。聖路加国際病院で研修医に「心療内科で学べるコミュニケーションスキル」を指導する医師に患者の本音を引き出す心理療法的アプローチの技法について聞いた。

経験値が貯まりやすい米国の研修手法

――山田先生は2010年に米国のサンディエゴ大で見たレジデントへの教育法を,現在所属している心療内科での研修医教育に取り入れていると伺いました。

山田 留学先で出会ったレジデントの行動科学面での優秀さに驚いた。この違いは,恐らく教育手法の違いに起因するのではと考えた。

留学先では,指導医やチーフレジデントが別室でモニタリングする中で,レジデントが事前に評価や介入法といった目標を立て一人で問診を行っていました。患者と接するのは基本的にレジデントのみでした。米国のほうが明らかにレジデントが主体的で,経験値が貯まりやすかったのです。

外来を担当する前には問診法・コミュニケーションの教育を行い,ロールプレイで経験を積むこと,外来では指導医と相談しながらも,研修医が一人で患者への病態説明を行うことを決めた。その結果,「実用的で成長を感じられる」と心療内科研修が評判となり,院内で必修化された。

共感と反映で患者の気持ちに寄り添う

 問診の際に言葉に詰まってしまう研修医が多い。患者の主訴を傾聴する,感情を受け止める必要があることは理解していても,その次に何を言うかまでを考えられていないからでしょう。研修医には心理療法的アプローチを実践するように指導している。

患者と信頼関係を構築して心理的問題の解決をめざすコミュニケーションの手法です。初めに患者の主訴を傾聴し共感することで患者に安心感を与え本音を語ってもらい,必要な情報を得て正確に診断を行う。ここで意識すべきは,感情的共感と認知的共感の2種類をうまく使い分けること。

図 共感・反映を経た問診時のコミュニケーション例
 患者の主訴に対し鑑別が何かを探る前に,まずは患者の感情を受け止め,「私はあなたの状況を理解しました」という姿勢を示すことで,信頼関係の構築につながる。

 感情的共感は感情移入とも言い換えられ,自分の感情を相手と重ね合わせること。反射的に実践できるため,テクニックなどは必要ない。実践しやすい一方で,患者のトラウマを聞くような場面では医師側も疲労してしまうリスクがある。

 認知的共感は相手の感情に同化せず,心情を推理して理知的に共感する手法です。患者の感情がどのような考えや状況に基づいて生じたのかを理解する。感情に左右されずに診療を進められるので,医師側の心理的な負担が減る。トラウマを扱う場面などではこちらを用いると良い。ただし共感だけでは不十分で,「共感」の次の一言として「反映」する必要があります。反映とは患者の状態や気持ちを医師の言葉で代弁することです。例えば相談された時の「大変さを理解してもらえないのはつらいですね」や「不満を感じるのは当然ですよね」といった声掛けです。「私はあなたの気持ち(状態)を理解しました」と示すために,反映を挟むのです。単にオウム返しするのでもよいが,反映がうまくできないうちは,あらかじめせりふを用意しておくとよいでしょう。「気になって当然ですよね」と肯定したり,「そのように悩まれる方はたくさんいらっしゃいますよ」と一般化したりして相手の気持ちを代弁すると,患者の表情が緩む。

問診時だけでなく,普段の会話から実践する

 個人差はあるものの,当院の研修でも1か月程度で技術の向上がみられる。慣れてくれば自然とできるようになるので,問診が短時間であっても患者の本音を引き出しやすくなり,患者満足度が向上するはず。

 ロールプレイなどで実践し,同僚・指導医からフィードバックをもらうのが良い。そもそも共感・反映などはコミュニケーションの手法ですので,問診時に限らず日常生活でも実践できる。ぜひ身近な人との日常会話から試してみるのを勧める。思考パターンを自分の中でストックしておけば,似たような価値観を持つ患者の問診に対応できるようになるはずです。

 自分とは異なる価値観を持つ,相性の合わない人ともコミュニケーションが取れるようになります。また,相性が合わない人の価値観を分析する機会が増えるので,自身がどのような価値観を苦手と感じるのかがわかるでしょう。多様な価値観を学べると同時に,自分自身を見つめ直すきっかけにもなりますね。

 医学的な説明よりも自身の訴えや悩みを聞いて理解してほしい患者が意外に多いとい。まず相手の主張を受け止めて,ニーズを理解することから始めましょう。患者の感情や言動には必ず理由があるので,その背景となる考え,性格,状況を分析してください。

 また,心理療法的アプローチはどの年代の方でも実践できます。研修医や若手の先生だけでなく,指導医の先生方もぜひ日常会話から取り入れていただけたらうれしいです。(了)

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